「…ガウリイ…何やってんの?」
朝食を食べるため一足早く下に降りたはずの相棒の姿が見えないので探して見たら、宿の庭に見慣れた金髪が座っていて…
その足下に子猫が3匹じゃれていた。
取り敢えずテーブルをキープしつつ窓を開けて尋ねると、困った顔をしたそれが子猫を一匹つまみあげ…
「にゃんこ。」
とあたしに差し出した。
みーみーと鳴くそれの目は薄い緑色。
「にゃんこって…見れば分かるけど…なんだって囲まれてんのよ?」
指で喉をくすぐると、また、みーと鳴いた。
「いやな…庭でリナみたいな色の猫見つけて…」
だから何だと言うのだろうか?
ガウリイを囲んでいる子猫達はどう見てもそれと同じ金毛なのだが。
「…それでそいつ触ろうとしたら、ひらっと逃げちまって…」
「うん?」
残念だなって振り返ったら子猫がちんまり並んで座っていたらしい。
「で…懐かれてんの?」
「どうしたらいい…?」
どうするもこうするも無い…旅に連れて歩けるものじゃないし。
置いてくしか無いわね。と言うと、えーと足に絡む子猫を眺める。
彼に摘みあげられた子猫も、みーっと鳴いた。
そんな時だ。
「あぁ…お客さんやられたねぇ…。」
と笑いながら宿の主人が注文を取りに来た。
「やられたって?」
席に座りメニューを開く。
どれにしようか選びながら聞き返すとおじさんは窓の外に目を向け…
「この辺りじゃ有名なんですよ、あの猫。」
と子猫を3匹抱えて窓からメニューを覗き込もうと必死なそれに苦笑いしつつ言った。
「有名って?」
朝食のセット各3皿づつ頼むついでに聞いてみる。
「いやね、毎年なんだが…あの猫…子供達がある程度大きくなってくると置いてふらっといなくなるんだよ。」
「す、捨ててっちまったのか!?」
愛しそうに3匹を抱えているそれが非難の声をあげたが、おやじさんは首を振る。
「2、3日で帰って来るよ。
あいつを見掛けた人の話じゃ…山で野ねずみを追いかけ回してるらしい…ストレス発散じゃ無いかって話だ。」
その話に、リナみたいだなぁ…とそれ。
しかし、と言う事は…ちらりと見れば何か訴えるまなざし。
諦めて溜め息を付くと親が戻るまでよとそれに言った。
「ありがとなリナっ!」
お前ら良かったなーとすりすりするそれに苦笑いした。
親猫が子猫達を置いて行くのは本当に毎回らしく、おやじさんは部屋なら入れても良いよと笑っていた。
それを聞いたガウリイは庭に3匹を下ろすと、
「俺は朝飯食ってくるから良い子で待ってるんだぞ!」そう言い聞かせる。
また子猫はみーと鳴いた。
しかし…食事中も窓の外をちらちらと気にしているそれ。
メインのお魚を取られても気がついていない。
「…ガウリイ、あんたそんなに動物好きだった?」
視線は窓に向けたまま、蒸したお芋のサラダをフォークで取り口に運んでいたそれがこちらを向く。
質問に答えるより先にお皿の異変に気がついたのか…リナっ!と非難の声を上げた。
「よそ見するあんたが悪いのよ。」
「うぅ…」
恨みがましくこっちを見るそれと同調するようにみーみーと外の3匹。
食事後、結局部屋に連れ込む事になったのだが…
「ちょっと…なんであたしの部屋にいるわけ…?」
当然の様に子猫を連れて入って来たそれ。
魔道書を読みつつ無視して来たのだが…
幸せそうにベッドでゴロゴロしているそれの姿に耐え兼ねて聞いてみる。
「リナ…猫嫌いなのか…?」
不思議そうに聞くそれ。
別に嫌いじゃ無いけど…と、ガウリイの身体にくっつく様に並んで寝ている三つの毛玉を眺めた。
時折長い尻尾や耳がぴこぴこと揺れる。
「リナ。」
「何?」
首を傾げると…開いている場所をぽふぽふたたく。
あたしも寝ろと言う事か…
仕方ないわね、と魔道書を閉じると子猫を挟んでそれの隣りに横になった。
窓から差し込む日が暖かくて気持ち良い。
確かにゆっくり寝るのも悪くないかもしれない。
伸びてきた手が、子猫を撫でるみたいにあたしに触れる。
「…何?」
「んーなんかさ…たまにはこんなのも良いな…って思って。」
「たまには…ね」
眠気が急に押し寄せて来たのは大きな手が心地良かったからか…
目を閉じたあたしの耳にほにゃはにゃと緩んだそれの言葉が届いた…
「いつかこんな風に寝るんだろうな…俺とリナと…子供とさ…」
「………。」
こいつ…自分が何を言ったか本当に理解しているのだろうか…
「ガウリイ…」
ぱちりと目を開ける。
何だ?と言うそれの顔からは何も読み取れない。
…卑怯よね、いつもいつも。
「…別に。おやすみ…」
おやすみリナとくすりと笑った声が聞こえた。
いつの間にかあたしのお腹に頭を押しつけて子猫が眠っていた。
Fin
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