「ふあぁ…」
気持ちの良い風に思わず欠伸が零れる。
昼飯も済んで腹はいっぱい。
あと1時間も歩けば町に着く。
別に急いでいるわけでもないから、昼食がてら少しのんびりしようと言い出したのはどちらからだったか…
俺の漏らした欠伸に笑いつつ、前の街で手に入れた魔道書から顔を上げてリナがこちらを見た。
「起こしてあげるから、寝てて良いわよ?」
「んー…でもなぁ…」
ぽりぽりと頭をかきつつ彼女の様子を窺う。
数ヶ月前から一緒に行動するようになった連れ。
というよりは、俺が勝手に保護者を名乗って付いていったのだが…
このお譲ちゃんがなかなかの食わせ物だった。
盗賊は魔法で吹っ飛ばし、お宝漁りは当たり前。
面倒だからと味方ごと地面を吹っ飛ばし…魔族に喧嘩売られたら倍返しするほどの力の持ち主だ。
保護者なんて必要なかったなと途中で気が付いたけれど、でもやっぱりどこか危なっかしくて…
そうこう思っている間に今度は、俺の持っている剣を目当てに付いて来るようになって…
毎日がすごく楽しいし、信頼もしている…のだが…
「なによ?どうかしたの?」
不審げにこちらを見て首を傾げる。
俺は再び出てきそうになった欠伸を噛み殺し、剣をしっかりと胸に抱く。
「持ち逃げするなよ…」
直後、彼女の読んでいた魔道書が額にめり込んだ。
人聞き悪いわね!!という言葉と共に。
「だってお前さん…3日前の野宿の時持って行こうとしたじゃないか…」
「う゛…そ、それは…」
「それは?」
「ちょーっと借りようかなって思っただけで…」
「ちょと借りようと思う奴は、あの眠くなる実を飯に入れたりするんだな。へー」
「って言うか、気づいてたの!?起きてたのっ!?」
そう叫ぶ彼女に、『俺、一応傭兵なんだけどな?』と首を傾げて見せた。
あの日はなんとか剣を取ろうとしていたけれど、俺がしっかり握って放さなかったために途中で諦めたのだが、まさか起きているとは思わなかったのだろう。
別に貸して欲しいならそう言えば良いのに…何故勝手に持って行こうとするのか。
そう言えば、つい癖で…と彼女。
いったいどんな癖なのやら?
「でも、ま…俺寝るから。」
栗色の髪をわしわしと撫でて木の幹に背を預けた。
目を閉じると、不思議そうな彼女の声。
「寝るの?」
「なんだよ、起こしてくれるんだろ?」
「うん…まぁ、そうなんだけど…」
それとも持って逃げるか?と光の剣を掲げてみせる。
薄く目を開けた先で苦笑いしていた彼女は、本を拾いなおすと首を振った。
今日は止めとくと。
「おやすみ、ガウリイ」
「あぁ」
頬をなでる風が心地良い。
「………」
目を開けた先に青い空が見えた。
塗りたてのペンキみたいな真っ青な空と、わたあめみたいな雲。
木の枝の隙間から零れ落ちる光。
「あ、起きたの?」
頭上から振る声に目を向ければ、朱色の瞳が見下ろしてくる。
「…おー」
「起きたなら、頭どけてくんない?いい加減重いのよね。」
彼女がそう言ったと同時に、頭の下が動いた。
まだボンヤリしている脳で状況を考える。
なんで俺、リナに膝枕なんてしてもらってるんだ?
それに、リナもなんか…寝る前と雰囲気が違うというか…ちょっと大人っぽくなったような…
気のせいか?
「何?変な顔して?」
「…あ、いや…なんていうか…」
ぽりぽりと頭をかきつつ、目を向けた先には見慣れぬ剣。
ん?と首をかしげた。
光の剣は何処に…ってまさか…
「リナ?」
「んー?何?」
魔道書に落とされた視線。
どうやら、とぼける気らしい。
「俺の剣どこだ?」
剣?と彼女は顔を上げ不思議そうにしながらも指さした。
そこにあるじゃないと。
目で先を追えば、先ほどの見慣れぬ剣に行き着くわけだが…
「いや、これじゃなくて…光の…」
取りあえず手を伸ばしつつ首を振ったが、束に触れた瞬間言葉を止めた。
手に馴染む感触。
「…あぁ、悪い」
「ガウリイ?」
「寝ぼけてた。剣はコレだよな…うん。これだ」
あんた大丈夫?と彼女
大丈夫だよと笑った。
そう、大丈夫。この剣はリナと見つけた新しい剣。
新しい、俺の相棒。
「…さてと…」
一つ
伸びをするとまたごろりと横になった。
あ、コラ!?と声が聞こえたが構わず目を閉じる。
「もう、足が痺れるから嫌なんだけど」
ぶつぶつ文句をいいつつも、髪を梳く手はくすぐったくて優しい。
そんな彼女にすりよるように腰に手を回し、目を閉じた。
ちょ、馬鹿っ!?何やってんのよ!!顔はあっち向けなさいよ!!
と叫んでいたけど…まぁ、いいか。
Fin
|