似たもの親子

【ガウリナ夫婦で子供がいる、ほんわか家族話】





朝日が空を薄く輝かせる。
気持ちのいい夜明けだ。
仮住まいの窓から東の空を眺めてほっと息を付く。
ちらりと視線を向ければ気持ちよさそうに眠る小さな影。
ベッドの端に座りなおし、栗色の髪を撫でるとくすぐったそうに肩をすくめ寝返りを打つ。
自然と頬が緩んだその時だ。
朝の静寂を破る破壊音が響いたのは…

「…リナのやつ」

地響きとでも言うのか…空気も大地も揺れた。
眠っていた鳥たちが一斉に羽ばたき警戒の声を上げる。
幸いベッドの上のそれは目を覚まさずにいるが…この閉じた目がぱちりと開いて彼女がいないことを知った時の泣き叫ぶ姿が浮かんでいたたまれない。
リナもリナだ。
いくらストレスが溜まっているとはいえ…もう少し静かにできないものだろうか?
でもまぁ…それでもここ数年はずっと我慢していたんだから今日くらい大目に見てやっても良いのかもしれない。
本当ならどんな場合でも一人であんな所に行かせたくはないのだが…まさか、ベッドで眠る小さなこれを連れていくわけにも行かず、人に任せるのも不安で『今日だけだからな』と許しを出した。
というか、血走った眼があまりに恐ろしくて頷いてしまった。

ズドーーーーーンっっ!!

また大きな爆発音。
絶好調のようだ。
今朝から何度目になるかわからない溜息をつきつつ…
彼女のストレス発散に付きあわされている盗賊たちを哀れに思った。












「たっだいま〜

最後の爆発音から、およそ1時間後ホクホク顔の彼女が帰宅した。
窓から。

「リナ…玄関から入ってこいよ…」
「あはは、ごめーん。…アレ?」

ベッドに腰かけて、小さなそれを抱いている姿を見て『まさか、起きちゃった?』と首をかしげた。
俺はため息をつき、そのまさかだよと苦笑い。
何度目かの爆発音に目を覚まし、彼女がいないことに気がついてつい数分前まで火がついたように泣いていたのだ。

「あらら、目こんな腫れちゃって…」
「お前なぁ…」
「ごめんってば、まさか起きるなんて思わなかったわよ…出かける前に眠りかけていったのに…」

流石くらげの子!とカラカラ笑う。
そういう問題かよと肩を落とす俺に、たまには良いじゃない!と彼女。
嬉しそうに頬をゆるめ、しゃがみ込むと柔らかなほっぺたをつんつんとつつく。

「まったく、甘ったれに育って…誰に似たのかしらね?」

はいはい、どうせ俺だよと笑ったところで閉じていた瞼が動いて大きな目が開いた。
ぱちりぱちりと瞬きするその色は俺と同じ色。
まだ寝ぼけているのか小さな手でこしこしと目をこする。
泣きはらした目元が少し痒いのかもしれない。
しかしそれは、ふと気がついたように手を止め顔を横に向け…にぱっと笑った。

「りなぁ!!」

げしっっ!と俺を蹴るように腕の中から飛び出ると彼女に飛びついた。
『ただいま。ごめんね〜』と謝る彼女はぎゅーっとその小さな身体を抱きしめる。
取り残されたのは俺一人。
それにしても…ひどいと思うぞこの扱い…俺一応父親なのに。

「どこいってたの?」
「ん〜?ちょっとね」
「…くらげとケンカしたの?」

首をかしげてそれ。
そういえば、リナがいないと気がついて泣いていたときにずっと俺に『ばかばか』と言っていたから…俺がリナを怒らせて、それで彼女が出て行ったのだと思っていたのかもしれない。
そんな子供の言葉にリナは微笑んで恐ろしいことを言う。

「その時は、置いて行ったりなんてしないわよ♪」
「ほんと?」
「うん。置いていくのはガウリイだけよ」
「うん!!」

ちょっと待て…何がうんだ。
何が俺だけだ。
剣呑な目で彼女を凝視する。
それに気がついて顔を上げたそれと目が合った。

「リナ…」
「あははは」
「あははじゃない!!」

むすっとする俺に、子供を抱きつつ立ち上がり見下ろして首をかしげた。

「だって、ガウリイは置いて行ったって追いかけてくるからいいじゃない」
「まぁ、そうだけど…」
「それより、ほら抱いてて。あたし朝ごはんの準備してくるから」

リナにぎゅっと抱きついているそれに手を伸ばすと…いつものことだが激しい抵抗があった。
いやいやと首を振る。

「おいおい、リナは朝飯作るんだってさ。だからこっちおいで」
「やーだー」
「嫌じゃなくて…ほら、パパが肩車してやるから、な?」

その言葉に、速効で返事があった。
『くらげ、きらい』と。
そしていつものように笑いを必死で押さえているリナの姿。
それを恨めしく見上げる。
こいつの我儘はリナに似たんだなと愚痴ると彼女は不敵に笑い顎を上げて言い切った。

「独占欲はあんたに似たのよ」
「………」

良い返す言葉が見つからなかった。
まさか、恋のライバルが自分の息子だなんて…

「どくせんよくってなぁに?」
「ん?大好きで独り占めしたいって思う事よ」
「りな、大スキーーーっ!!」
「うん。あたしも大好きっ!」

きゃっきゃと抱き合う二人。
俺に勝ち目は無さそうだ。




Fin

 -2009.04.06 hit-


Kiriban



2009.09.03 UP