「がうり…」
「…目覚めたか?」
「…んっ」
「もうすぐ宿につくから…寝てろ」
「………怒って、る?」
「当たり前だ」
本当に不機嫌そうな顔を見上げた。
戦いの最中ですらみたことのない顔。
長い沈黙の後、苦しげにガウリイが呟いた。
「…間に合ってよかった」
涙がぽろぽろ出てきた。
ごめんねと告げた声は届いただろうか?
ガウリイの返事はなく、あたしはただ身体の中をぐるぐると巡る熱を持て余し息を吐いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「風呂入りたいだろ?」
「…ん…」
ベッドに下ろされて、覗き込むようにそう聞かれて頷いた。
だけど手も足も重くて動かせない。
「どうした?」
ガウリイが頬に触れる。
それだけで痺れるような感覚。
「熱があるな…」
「ん…」
軽率な行動を取ったあたしを怒るわけでもなく心配そうなそれに申し訳ないという気持ちが膨らんでいく。
コップに入れた水を口にあてがわれゆっくり飲むと、少しだけ熱が引いた気がした。
「リナ?」
「…がうり…」
「大丈夫か?」
「ん、ごめん…ありがと…」
助けてくれて。
ガウリイはふっと微笑むと、すぐに怒った顔を作った。
あれほど言ったのに聞かないからだぞ!と低い声。
「…本当に何もされてないか?大丈夫…だよな?」
俺が見た以上のことをされたか?と聞かれているようだった。
ただ首を振る。
「そうか…」
ホッとした表情のそれに頷くしかない。
確かに何もされてはいない…ガウリイが見た以上のことは…されていないけれど…
「リナ?」
「…なんでもない…あたし、お風呂はいる…」
「一人で大丈夫か?」
「…平気」
重い足を引きずって立とうとすると、支えてくれる。
本当はこうして触れられること自体…とても苦しいのだけれど…こればっかりは自力で乗り切るしかない。
もう、迷惑をかけたくないと歯を食いしばった。
それでも、背に回された腕に意識が集中してしまう。
軽く身体を捻ると、大きな手をやんわりと押し返した。
大丈夫だからと自分に言い聞かせるように…。
「…本当に…平気か?」
「うん」
部屋の前でガウリイと分かれて浴場に向かう。
天然温泉を引いているので一日中開いているし、流石にこんな夜中に人はいない。
ホッとした気持ちでかき合わせていたマントから手を離すと無残に裂かれた服と白い肌が露になった。
もう少しガウリイが来るのが遅かったらどうなっていたのだろうか?
「……そんなこと考えるまでも無い、わよね…」
ぎゅっと目を閉じ、さっさと服を脱ぐと湯をかけ身体をごしごしと洗った。
あんな男に触れられて素直に反応してしまった。それが悔しい。
おそらく…気絶させられていた間になにか薬を飲まされたのだろうけど…それでも自分が許せない。
泡の付いたタオルが肌を擦るその感触に時折ビクリと震える。
あやすように背中を撫でてくれた彼の手を思い出すと、足の付け根のその奥がじんとしてきた。
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