末娘が妙なモンを拾って帰ってきた。
一度俺も拾いかけたそれ。
少しはマシな顔になったもんだ。
そう思ったのだが―――
ぶどうの季節が終わる頃、末娘が突然帰ってきた。
やっぱりブドウは間に合わなかったわね。と笑いながら。
その後ろには見たことのある顔が1つ。
「よぉ。」
お帰りと、末娘の頭を撫で、その後ろの天然に声をかける。
久しぶりだな。と。
しかし相変わらずのそいつは首をかしげ俺の顔をまじまじと見つめ…
「だれだっけ?」
とぬかしやがった。
解っていてしらばっくれているのかとも思ったがどうやらそうではないらしい。
相変わらずだ。
ぴっ!と持っていた釣竿が撓る。
が…いとも簡単にそれを避けた。
そして、ぽむとてを打つと「あのときの、おっさん!」と指差した。
「てめぇは、人を指差すんじゃねぇよ。」
それまで、大人しく頭をなでられていた末娘が俺と天然を見比べて、二人とも知り合いなの?と聞いてくる。
昔すこしな。と答えて家に帰る一本道を3人で歩く。
歩く―――ちょっと、待て。
なんで天然の野郎は付いてくるんだ?
しかもなんだ?なんでリナと手ぇつないでんだ?
「………」
立ち止まる。
二人は手をつないだまま先に進み、俺が遅れたことに気が付き振り返った。
「父ちゃんどうしたの?」
きょとんとした末娘の顔。
だけど、なんだ…なんだこの違和感は?
前から可愛かったが…こんなに女の顔をしていただろうか?
成長した。
確かに背も伸びたし大人びていたって不思議じゃない。
だけど、ソレとは違う何か…何…
ふと、隣に眼を向ければ、愛おしそうに末娘を見つめる天然。
「………」
「父ちゃん?おーい。」
コイツ…俺の可愛いリナに手ぇ出しやがった。
絶対出した。
俺の許しも無く…許しを請われても却下だが…
ぐぐっと釣竿を握った手に力が入る。
あふれ出た殺気に気が付いたのか、ぱっと青ざめるリナ。
が…天然野郎は気にした風でもない。
それがまたムカつく。
ぶんっ!と竿が撓る。
二人の間に。
「おっと…」
「きゃっ!?」
手が離れる。
もちろん間違っても可愛い娘に竿が当たるなんてことはしない。
そこまできて初めて手をつないでいたことを認識したらしい末娘。
「が、ガウリイ…だから手はダメだって言ったのに…いつの間に!?」
「いつの間って…ずっと繋いでたけど?」
「う…気づかなかった…」
赤くなりながら、ぱたぱた手を振り「コレには事情が…あのね…」と俺を見る可愛い娘。
だが…娘の口から、そんなコトを聞いてたまるか!
「リナ。」
「な、なに父ちゃん?」
「俺は1つ宣言しておく。」
「何を?」
「天然にリナはやらん。俺の許しも無く俺のもんに手ぇ出したのはぜってー許せねぇ。」
ぼんっと音を立てて赤くなる顔。
あわあわきょろきょろと挙動不審な末娘。
殺気を消さずに睨んだ天然はというと涼しい顔で俺を見て
「じゃぁ、OK出ればいいんだな。」
「誰が出すか!」
ふんっ!と顔を背け娘の手を引く。
ずんずんと早足で歩く俺の前に回りこんだそれが、俺の眼をまっすぐに見つめて深く頭を下げた。
「俺にリナをください。一生大事にします。愛してるんだ!」
末娘の眼にじわりと感動の涙が浮かぶ。
深く頭を下げるそれと、期待を込めた目で俺を見上げる娘。
だが…
「やらん。帰れ!」
一刀両断。
道の真ん中で邪魔な奴だと避けて歩く。
しばらくぽかんとしていたそれが、ばたばたと足音響かせ追いついてくると、
「リナが好きなんだ!結婚させてくれ!」
「だめだ。」
「もう、俺にはリナしかいないんだ!」
「知るかそんなもん。とにかくダメだ!」
「リナを一生大事にするから!」
「そんなの当たりめぇだ!でもお前にはやらん!」
「なんでだ!」
「俺を無視して、こいつに手ぇ出しただろうが!それが気に入らねぇ!帰れ!」
むっとしたそいつが立ち止まる。
その隙にぐんぐんと突き進む。
が…次の瞬間、あの天然が発した言葉に凍りついた。
「オトウサンと呼ばせてくれーーーー!!」
リナのほうも固まっている。
二人そろってぐぎぎと後ろを向けば、天然馬鹿が大声でまた叫んだ。
「オ・ト・ウ・サ・ン・!」
なんだ?
この背筋に走る悪寒は。
それ以上に…無性に腹が立つのは何故だ?
そう、奴は説得方法を変えてきやがったのだ。
精神的に俺を追い詰めて、OKを出させる気だ。
だが…そうはいかねぇ!!
耳をふさぐ。これなら聞こえねぇ。
聞こえたとしてもそんなもん人の言葉なんかじゃねぇ。
「オトウサン!オトウサマ!チチウエサマ!どうか俺にリナをください!」
あー、耳元で天然がなにか叫んでやがる。
「オトウサン!」
「あーーーー聞こえねぇ。」
「オ・ト・ウ・サ・ン・!」
「あーーーー何にも聞こえねぇな!」
「俺にリナを下さい!」
「あーーーー、あーーーーまったく静かな日だ!!」
早足で突き進む俺に、同じ速度でぴったりと付いてくる馬鹿。
置き去りにされた末娘がぽかんと見送っているのを感じながら俺は思った。
こんな精神攻撃に負けてたまるか!
と。
――― 「オトウサンと呼ばせてくれ!!」 ―――
「俺は絶っ対に、認めねぇ!」
Fin
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