いつものように並んで街道を歩いていると急にリナが立ち止まった。
地面を見つめ眉間にしわを寄せている。
何かあったのだろうか?
今朝の飯は旨かったし、雨も降りそうに無い。
少し肌寒くなってきてはいるが、今日は風もないし日もぽかぽか照っている。
なのに何故そんな難しい顔をしているのだろうか?
「リナ?」
首を傾げると彼女は顔を上げそっと俺の腕を取った。
そしてそれを支えに片足をブーツから引っこ抜く。
「なにしてるんだ?」
片足で立ちながら拾い上げた靴を裏返す。
「あちゃ…」
「ん?あー。破れてるな。」
磨り減った靴底。
そしてつなぎ目が少し裂けてきていた。
ちょうどつま先の部分。
リナはため息をついて靴を下に置く。
「次の街で新しいのを買わないと…これ結構気に入ってたのになぁ…」
ぶつぶつと良いながらまた足を突っ込む。
それにしても…
「ちっさい足だなぁ…」
思わず考えていたことが口から漏れる。
リナが俺を見上げた。
「当たり前でしょ?こんだけ身長差があるんだもん。あたしがアンタみたいな大足だったら変じゃない。」
そう言ってリナが自分の足を俺の足の隣に並べて見せた。
こうして比べてみると本当に小さい。
女の子は皆こんなに小さいものだっただろうか?
「うーん。だなぁ。リナが俺と同じサイズだったら変だな。」
「でしょ?」
そう言って歩き出したリナの隣に並ぶ。
ゆっくりと彼女の歩幅に合わせて歩く。
出会った当初は意識していたそれも、今ではこのペースが普通になった。
横目で彼女を見ると、リナはまた地面を見ている。
正確には俺の脚。
「なんかズルイわよね…」
「…なにが?」
歩きながら呟くと息を漏らしまた視線を前に向ける。
長いまつげ。
「ガウリイっていつもあたしに合わせてるでしょ?」
「…ん?」
「歩幅。」
「え、あー。まぁそうだろうけど…」
「なんか、それってちょっとズルイと思うのよねぇ。」
…なんでそれがズルイのだろう?
首を傾げると、唇を尖らせたリナが思っても見ない言葉を吐いた。
「あたしがいっぱい足を動かなさなきゃ進めない距離を、あんたはゆっくり余裕で歩いてるわけよ。」
「はぁ…」
「だから、あたしのほうが早く靴が磨り減るじゃない!」
「…いや…まぁ、そうなのか?」
「そうよ。」
なんかそれってズルイ。
とリナは言う。
しかし…そんなことをズルイと言われても困るんだがなぁ…
「でも、ホラ…リナは魔法で飛べるし。」
「魔力食って疲れるもん。それに飛ぶときはあんたも抱えてく事の方が多いじゃない。」
「あ、んーそうだなぁ…じゃぁおんぶでもしてやろうか?」
「恥ずかしいから嫌。」
即効で否定された。
我侭だなぁ…と思わず笑ってしまう。
なによ?と睨まれるのだが。
「でも、ホラ。俺に合うサイズの靴ってなかなか無いからさ。探すの結構大変だし、値段も張るし。」
そう言ってやるとリナは顎に手をやりしばし考え、それもそうね。
と呟いた。
俺サイズの服や靴を探すのも結構大変なのだ。
サイズだけではなくリナは質にも拘るから余計に見つけにくいということもある。
着られれば何でも良いんだけど?と前に言ったら思わぬお説教を受けた。
『いーい、ガウリイ!着られれば何でも良いって適当に服を買ってちゃお金の無駄よ!』
『…そうなのか?』
『常識よ。旅をする以上一般人より服が傷みやすいんだから生地の強いもの、動きやすいものを選ばなきゃ。』
『ふーん。』
『ふーんって…あんた今まで…あ、もういいわ。どうせ何にも考えてなかったんだろうし。とにかく選んであげるから大人しく付いてきなさいよ。』
『おう。』
そんなこんなで買い物は一日がかりだ。
街に着いたらまたあちこち回って靴探しなんだろうな。
「なぁ、リナ」
「んー、なに?」
「街に付いたらさ、俺がリナの靴選んでやるよ。」
「却下。」
これまた呆気なく駄目だと言う。
なんで?と隣を見下ろすと、彼女は前を向いたまま
「アンタが選ぶと、やたら女の子女の子したものばっかりじゃない。」
「…そうかなぁ?」
「そうよ。しかも旅するには不向きな赤いヒールとか。」
「あー。前にな、でもアレはリナに似合ったと思うんだけど。」
靴屋の向かいのショーウィンドウに飾られた服と合わせたら完璧だった。
リナにぴったりの服と靴。
でもあの時も即効で却下されたっけ。
「あたしは旅用のブーツを探すのよ。」
「んじゃ、ブーツ選ぶ。」
「…あんたに選べるかしらね?」
少しはにかんで俺を見上げたリナに笑みを返した。
「ぴったりのを見つけてやるよ。」
「期待しないで待ってるわ。」
どこまでも青く澄んだ空の下、俺はリナと並んで歩いた。
ブーツが磨り減った分だけ旅をしてきた。
そしてまた、新しいブーツを磨り減らせて一緒に旅を続けていくんだ―――
―――いつまでも、二人一緒に。
Fin
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