水割りの関係

【原作設定】





「…はぁ…」

パタンとドアが閉じて、完全に気配も消えたころあたしはようやく息をついた。
いや、別に止めていたわけじゃないけれど、居心地が悪かったのは事実だ。

「人が寝てる傍でイチャイチャしないでほしいわ…」

すっかり目が覚めてしまった。
むくりと起き上がって、腕に抱いたままだった枕をぽいっと投げ出して伸びを一つ。
せっかく起きたのだし盗賊いぢめにでも行こうかと思ったけれど止めた。
ルークが部屋を出た気配でガウリイは起きただろうし、気づかれずに外に出るのは無理だ。

「………」

ぽりぽりと頭をかきながら窓の外を眺めた。
月が明るい。
散歩でも行こうかとも考えたがあの二人と鉢合わせするのもなんだか気まずい。
どうしたものかと思っていると小さなノック。

「リナ、起きてるか?」
「あ、うん…」

何?っとドアを開けるとガウリイが立っていて、少し飲まないか?と首をかしげた。
お酒に誘ってくれるなんて珍しい。
いつもは、あまり飲むなと言うくせに…
でももう酒場はどこも閉まっているんじゃないだろうか?
あまり大きな町でもないし。
そういうと、部屋にあるから。とそれ。

「…わかった。すぐ行くわ」
「あぁ。」

いったん部屋に戻り、ベットのそばに転がっていたスリッパを履くと斜め向かいの部屋のドアを開ける。
テーブルに置いたままだったグラスを片付けて新しいのを出しているガウリイの傍を通りずぎるとベッドに腰かけた。

「ルークと飲んでたの?」
「ん?」
「お酒。グラス出てたから」
「寝る前にちょっとな」

結構強そうな酒だというのに、残りは三分の一程度だ。
もちろん普段からこんな嵩張るもの持ち歩いて旅はしていないからこの町で買ったのだろうけれど…夕食の席でも結構飲んでいたというのに…
呆れてしまう。

「なぁ、リナ?」
「ん?」
「氷出せるか?グラスに入るくらいの。」

ひょいっと差し出されるグラスが二つ。
それくらいなら朝飯前よと呪文を唱えた。

「便利だよなー」
「まぁね」
「これくらいなら、お前も覚えられるだろ?ってルークに言われたけどなぁ…」

その言葉に笑う。
無理だ。ガウリイには。
この男はきっとライティングすら覚えられないに違いない。
そう言ってやると、酷いなぁと呟きながらグラスを渡してくる。
琥珀色の液体の半分以上は水と氷だ。

「…ケチ…」
「リナにはこれくらいで丁度いいと思うけどな?」
「これじゃぁ味もなにもわかんないわよ…」

自分は氷の入ったグラスにそのまま注ぎ飲んでいる。
それを横目で見つつ、ちびりと口に入れた液体は…結構おいしい。
それに香りも強い。
でも薄めたそれで丁度良いかもなんて言うのは悔しくて、『薄いわ』と嘯いた。

「んで?どうしたのよ急に?」
「んー?」
「あたしとお酒飲もうなんてあんまし言わないじゃない?」
「ん…あぁ…」

普段なら『1杯だけだぞ!』とか『こっちにしとけ!』とか…とにかくジュースみたいなものをほんのちょこっとしか飲ませてくれないのに。
何があったのよ?と首をかしげるがそれは曖昧に笑うだけで答えない。
相変わらずハッキリしないそれに、あーそうですか…と心の中で諦めの言葉を吐く。
ほんの少し期待した自分が馬鹿みたいだ。

「ガウリイのばか…」
「ん?」
「なんでもない!それよりもう一杯!!」

ぐいっと飲み干したそれを差し出すとハイハイとガウリイ。
相変わらず注がれる中身は水で割られていて…
喉を焼くようなひりりとした感触も何も無い。
さらりと滑り込むくせに、香りだけは強くて…
曖昧でなんなのか分からないところなんかは…あたしたちみたいだ。

「…結局あたしたちは、水割りなのよね…」
「は?」

そうよ、水割りなのよ。
味なんてわかんないくらい薄められたモンなのよ。
ガウリイはケチだから全然くれないし…

「り、リナ?」

別にアイツみたいに、露骨に言葉にしなくたって言いのよ…
だけど、少しくらい…少しくらい大人として扱ってくれてもいいじゃない…
あたしは薄めたお酒より、もっと濃いのじゃなきゃ酔えないのよ!
ケチ。ガウリイのケチ!!

「おーい?」

こんなに薄められたんじゃあんたが何考えてるのかなんてわかんないわよ!!

「あ゛ーーーーーもうっ!?ガウリイの馬鹿!!あたしもう寝るっ!」

なんかイライラして空のグラスを押しつけるとベッドにもぐりこんだ。
何か言っている声が聞こえるけど、もう遅いんだから!!
寝るって言ったら寝る!!
ガウリイは水でも混ぜて、ずーっと曖昧にしてればいい!
頭の下にあった枕を移動させて抱えると目を閉じた。
















◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
















「…で?お前らナニしてたんだよ…?」

部屋に戻るなりルークはそう言った。
視線の先には俺のベッドで丸くなって眠るリナの姿。
完全に何か含んだようなからかいの声だ…しかし…

「進展あったように見えるか…?」
「見えねぇな」
「だろうな…」

ハハッと乾いた声で笑う。

「で?何でコイツぐーすか寝ちまったんだ?」
「…いや、ちょっと和んだ所で…と思ったんだけどな…」
「和むって…お前まさか…酒飲ませたのか?」
「…あぁ」

頷くと同時に馬鹿かと言われた。
確かに馬鹿だ。

「あんな強い酒飲ませたらそりゃ寝ちまうだろ…コイツあんまし酒強くねぇし」
「うーん…でもなぁ…まさかあれだけ薄めたやつで酔って寝るとは思わないし…」

薄めたってどれくらい?と聞くそれに、実際に作って見せた。

「………」
「これ、2杯飲んで寝ちまったんだぞ…」
「…それは…」

ルークも呆れ顔だ。
まさかこれで酔うなんて思いもしないだろう。
しかし…

「ガウリイ…コレ飲ませたのか?」
「あぁ。結構薄めただろ?」
「…お前…これ普通の水割りの比率だぞ…」
「へ?」

何言ってるんだとルークを見る。
俺達ほとんどそのまま飲んでるじゃないかと。
しかしどうやら…世間の人間の大多数は…これを薄めて飲むらしい。

「…そりゃ酔うだろうな…ただでさえ強い酒飲まされたら」
「でも、リナ薄いって言ってたぞ…」
「元々薄めて飲むモンじゃねぇと思ってたんじゃないのか…?」

頭をガシガシかきながら投げやりに言うと部屋から出て行く。
どこへ行くんだ?と聞くと振り向いた。

「コイツここで寝てるから、俺あっち行くわ」

ま、ガンバレよ。と心の全くこもってないエールを残してドアはバタンと閉じた。




Fin




Short novel



2009.06.28 UP