人生において、これだけは絶対に譲れないものがある。
幼いころから聞いていたばあちゃんの口癖がそう。
「女子供には優しく」それは、摺り込み…と言うのだろうか?
その言葉は俺の中にしみ込み、無意識に行動してしまう。
リナには不評だった。
優しくしようとすればするほど、子ども扱いだと頬をふくらませる。
確かに、もう小さな女の子ではないけれど…それでも、守りたい人であることに変わりはない。
盗賊いじめに行くのを止めるのも、酒場で酒を飲むのにいい顔をしないのも…リナが特別だからだ。
優しくしたい。だけど束縛したい。
いつからか心の中に芽生え始めた感情は、酷く醜い。
優しさなんて詭弁だと思わざるを得ない。
だけど、笑顔が見たいから。
泣き顔だけは…見たくないから…一握りの理性をかき集めて、良い人を演じる。
自由が好きな彼女が、息苦しさを感じていることも、苛立ちを静かに募らせているのも気が付いていた…
抱いたら、俺の中で何か変わるのだろうか?
笑顔の下でそう思う。
それを見透かしたようにリナが言った。
寝てみないかと。
息が詰まった。
『何馬鹿なこと言っているんだ』と軽はずみな発言を戒めてやりたいと、良い人の部分が言う。
しかし、口から出たのは本音だった。
「後悔してリナが泣かないなら…俺は、抱きたい。」
向けられた瞳が冗談を言っている風には見えなかったから…そう答えたんだ。
良いよ。と彼女が笑う。
もっと。もっと。
溶けるくらい、ひとつになりたい。
本当の俺。
本当の気持ち。
全てぶつけてしまっても…彼女は潰れたりしなかった。
女子供には優しくしなくちゃいけない。
何故ならとても弱くて繊細な生き物だから。
それが間違いだと知った。
「…がうり」
「ん…」
”大好き”と動く唇。
リナの全てが、特別な砂糖菓子でできているみたいに甘かった。
Fin
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