黒く光る凶器

【パラレル】





一日の終わりは一体いつなのだろう?






今朝一緒に食事した仲間が死んだらしい。
名前も覚えていない。
軍学校を出たばかりのひよっこだ。


「………」


少し考えそれと歳があまり変わらない事に気が付き首を振った。
…特に何かを語り合ったりしたわけじゃない。
不安を和らげようとそれが一方的に語る言葉にただ頷いていただけなのだがこんな場所ではよくある事だった。
カチャカチャと食器が触れる音が聞こえるだけで誰も何も言わない。
心が病んでいるのだ。
これを食べたらまた人を殺しに行く。
だから自然と腕が重くなり、口に運ぶ速度も遅くなっていった…
そんな中でただ一人…己を失わない奴がいた。


「あーもぉ!なんで戦地のご飯ってこんなにマズイのかしら!!」


パサパサとしたパンと、水みたいなスープに文句を言いながらもものすごい速さで消費していく女が一人。
固い肉を口に押し込み噛みしめながらそれが辺りを見渡すと全員が身をすくめるようにして飯を口に詰め込み始めた。
理由は簡単だ…


「ゼルそれ食べないのね」
「いや…」
「ありがと♪」


断る暇も無く、席を立ったそれが唯一の肉をつまんで口に入れた。
彼女の名前はリナ=インバース。
2か月前戦場に送り込まれてきた…彼女と一緒に来た他の者たちはもう半分残っているかどうか…


「…お前…」
「…固い肉ね」
「文句を言うなら食うな…」
「足りないんだもん」


小柄で華奢。とても軍属とは思えない。
衛生兵でもなければ補給部隊でもなく彼女は最前線にいる…それは今でも馴れない。
こんな場所にいて良いと思わないのに…誰よりも血と硝煙が似合う気がした。


「なんかさー、人減ったわよね」
「あぁ」
「やっぱり十日前の作戦ミスが原因よね…敵の誘いにまんまと引っ掛かるなんて馬…」


馬鹿と言おうとしてリナが口をつぐんだ。
どうやらその馬鹿上官が通りかかったようだ。
目だけでそれを追い、通り過ぎると改めて『馬鹿よね』と呟いた。


「確かにな…」
「あたしならもっと上手くやるのに…っていうかゼルの方がそういうの向いてるわよね」
「どうだろうな…」


そういう場所で上を目指すには少々性格に難があった。
媚びることも、上官を持ち上げることも彼は得意ではない。
結果、作戦ミスの責任を押し付けられ…今こうして戦場にいるのだから、やはり向いていなかったのだろう。
死は身近で、別に恐ろしいものでもない…
ふと考え込んでいたようだ。
パシンとリナが背中を叩いた。


「どーでもいいこと考え込んでると死ぬわよ。ま、明日も生き伸びてまたあたしにご飯おすそ分けしてよ!」
「…お前な…」
「あぁ、そうだ。コレあげる」


何かを思い出したようにリナはホルダーから銃を抜く。
『お守りよ』と渡されたそれのグリップには銃弾が当たった痕があった。


「今日のあたしが生きてる証。貸してあげるからそういう顔するの止めてね」


空のトレイを持ち、ひらひらと手を振って去るそれの後姿をただ眺めた。






生きている限り、終わりなどやってこない…




Fin




Short novel



2010.11.17 UP