Eat me ♪

【つばさ設定】





「ガウリイ…ちょっといーい?」


ノックの後、返事も待たずに開いたドア。
リナがひょこりと小さな頭をのぞかせた。
剣の手入れをしていたガウリイは、道具を片付けると首を傾げる。
リナの様子がおかしい。
何時もなら何も遠慮などすることなく、ずけずけと入ってきて勝手に寛いでいるというのに…


「入らないのか?」
「う、うん…入るけど…」


どこかモジモジしたまま部屋に入ってくる。
背中に隠すようになにかを持って…
籠のようだが…


「あ、あのね、ガウリイ…」
「うん?」


リナは俯き気味だった顔を上げる。
小さな顔。長いまつげに縁取られた目はくりくりと表情豊かだ。
微かに染まった頬は柔らかそうで思わず突きたくなる。
そんな愛くるしい少女は言った。
ガウリイが思いもしなかった言葉を…


「ガウリイ、あたしを食べて!!!」
「………」


思考停止。

意味が解らない…なら良いが…生憎解ってしまった。
”食べて”の意味をこの幼い少女が理解しているかは別として…


「…えーっと…リナ…どこでそんな言葉覚えてきたんだ?」


そのままの意味で受け取って良いわけ無い。
リナはまだ12歳の…子供だ。
なるべく表情を変えないように装うそれの、青い瞳を探るように見上げるリナ。
短いようで長い沈黙が続き…彼女はつまらなそうに唇を尖らせた。


「あーあ、やっぱりうそだった!」
「嘘?」


ベッドにどかっと腰を下ろすとリナは後ろ手に隠していたものを膝に載せる。
籠いっぱいの苺だ。


「あ、コレあげる」
「…あぁ…ありがと…」


隣に座り受け取るも意味が解らず首を傾げるガウリイをよそに、リナは手を伸ばし苺をぱくつく。


「ナーガの言うことなんて信じないで最初からコレあげれば良かった。変な緊張しただけ損だったわ」


話が見えない。
するとリナは大きな苺を頬張りながら、誕生日なんでしょ?とガウリイを見つめる。


「今朝、シルフィールが手袋渡してたじゃない。誕生日プレゼントだって…」
「あぁ…そういえば……見てたのか?」


今朝、部屋を出て食堂に向かう途中で呼び止められて…確かに貰った。


「言ってくれれば良いのに。そしたらあたしだってもっと良いもの探せたのにさ…」


拗ねたそれに微笑みつつガウリイは頭をかいた。
自分でも忘れていたことだったのだから仕方ない…以前なにかの事件で彼女と知り合ったときにしつこく聞かれて、何となく教えたものだったし…
素直にそういうと、ガウリイってやっぱりくらげなのねと笑う。


「で、いろいろ探して考えてみたんだけど…ガウリイが喜ぶものなんて食べ物以外思いつかないし」
「それで苺か…」
「うん。そしたらナーガが、もっと喜ぶものがあるって…ガウリイくらいの男の人ならさっきの言葉言うとすっごい嬉しいから言えって」
「……えーっと…」
「ま、ナーガの言葉信じたあたしが馬鹿だったのよね。よく考えたら意味わかんないもん。『わたしを食べて』なんて。食べ物じゃないのに変よね」
「そ、そーだな」
「ガウリイもきょとんとしてるし、このあたしを騙すなんて許さないんだから!後でナーガとっちめてやる!!」


ぷんぷんとしながらも苺を口に入れる。
ガウリイへのプレゼントと言う割には先程から手は止まらない。
辛うじてもごもごとしながら、ガウリイは食べないの?と聞く。
その姿に笑いつつ真っ赤な粒を一つ口に入れると、甘酸っぱいい味と香りが口いっぱいに広がった。


「美味い」
「でしょー」
「って…こらリナ!?俺へのプレゼントだろ食い過ぎだって!」


ふと気がつけば籠の中身はもう半分以上減っている。
リナは『良いじゃない!』と言いつつ一気に口に放り込んだ。
パンパンに膨らんだ頬。
もきゅもきゅと噛むとごくんと飲み込む。
既に籠の中身は空っぽだ…


「…全部食っちまった…俺一つしか食べてないのに…」


さっさと食べない方が悪いのよ。と得意げなそれ。
ガウリイははぁぁあとため息をつくと、ふと悪戯を思いついたようににんまり笑った。
食べ終えて満足したリナは、ぴょんとベッドから立ち上がると『じゃーまた後で』と出て行こうとする。
ガウリイはその腕を素早く掴んだ。










「なぁ、リナ…」




―――ちょっと味見してもいいか?―――




Fin

Happy Birthday Inaba


Short novel



2010.12.15 UP