「…頼むから……無茶するな…」
絞り出すような声に胸が痛んだ―――
「痛っ!!!!」
あまりの激痛に逃げようとした腕をガウリイは放してくれない。
よく効くのだと言う薬草は吐き出したいくらい苦いし、消毒は憎らしいほどしみる。
あと2日もすれば魔法も使えるから治療できると言っても容赦は無い。
その間にバイキンでも入って化膿したらどうするんだ!と言われればその通りなので黙るしかないのだった。
「深い傷じゃないから良かったけどな、一つ間違ってたら…」
「あーーーもう、わかってるってば!もう何回も聞いたわよっ!」
「絶対わかってない!」
「…むぅ…」
包帯を変えてもらう度にお説教だ。
一つ間違ってたら…腕が落ちていた…とそれは声を荒げる。
正直、事実なので反論は出来ない…
小さな山合いの村に辿りついたのは数日前のことだ。
諸々の事情で数日滞在することにしたその日の夜…レッサーデーモンが湧いた。
魔王の欠片との戦いの後もまだ各地でそういうことがあるのだ。
村はずれに数体と聞いてガウリイは剣を掴むと『ちょっと行ってくるから大人しくしとけ』とリナの頭を撫でた。
レッサーデーモンの2、3匹ならガウリイ一人で十分だ。
ひらひらと手を振って見送り、リナは宿屋に残ったはずだったのに…
「魔法が使えないのになんで出てきたんだ!」
「それは…」
宿でガウリイの帰りを待っていた時だ。
突然入口が吹き飛び、レッサーデーモンが1匹入ってきた。
リナは咄嗟に呪文を唱え…それはちゃんと発動した。
今思えば、普段に比べて威力は半分以下だったけれど…そのときは、まだいけると思ってしまったのだ。
焼け焦げたそれを飛び越えてガウリイのもとに向かい…このザマだ。
油断していた。
ほんのちょっとだけ、油断していたのだ。
「わるかったわよ…」
「…おれは、こうやって包帯を変えたり消毒したり…それくらいしかできない…」
「ガウリイ?」
「リナが怪我しても治してやれないんだ…だからちょっとでも魔法が使えないときは無理するな」
隠れてろって事?と首をかしげると金色の髪が左右に揺れた。
大きな手が器用に包帯を巻く。
「手を抜けってこと…はい、できた」
ぽんと腕を叩かれる。
反射的に「いたっ」と声を出すとガウリイは慌てた。
冗談よと笑いながら、仰々しく手当されている腕を眺める。
『伏せろ!』
あの時、ガウリイの上げた声に反応出来たから、かすり傷で済んだ…
そうでなければ、骨までえぐられていただろう…
想像するとあまり面白くない。
しかめっつらで、腕を眺めているとぽふぽふと頭を撫でられた。
「次は気を付けてくれよ?」
消毒などを入れた箱を手に立ち上がるそれを見送りながらリナは、そうねと呟いた。
Fin
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