この一撃で場の主導権をがっちり握ったリナは、
屋根の雪下ろしに家のまわりの雪かき、果ては薪小屋の建て直しにと、
雪降らし達をさんざん働かせた。
「なんで俺たちがこんな目に……(涙)」
「あんまりだぜぇ〜……(泣)」
「やかましっ! 少しは雪国生活者の苦労も知りなさいっ!!」
リナもアメリアもゼルガディスも、仕事の監督をするだけで、絶対に手伝ってやらなかった。
みんな寒いのや冷たいのにはもううんざりしていたし、
雪降らしがやった事の始末は雪降らしがつけるのが当然だと思ったからだ。
そして、ようやくリナの口から「良し!」のお許しが出たのは、それから一週間も後のことだった。
「どーも、長いことお世話になりました」
「んじゃ、俺たちこれから、散らばった雲を集めに行かなきゃならないんで、これで」
「うみゅ、お疲れさん。 これに懲りて、もう二度と適当にドカ雪なんか降らせるんじゃないわよ!」
「はい……」
「以後、気をつけます……」
くたびれてすっかり大人しくなった雪降らし達は、小さな夕焼け雲に乗ってふらふらと空へ帰っていった。
「さよーならー! お元気でー!」
「もう戻ってくるなよ!」
「奥さんとミリーナによろしくねー!」
「気をつけて帰れよなー♪」
………………
「「「あれっ!!!?」」」
リナ達がびっくりして振り返ると、そこにはなぜかあの金髪の雪降らし・ガウリイがいた。
「ガ、ガウリイっ! あんたなんでまだここにいるのよ? お空へ帰らなくていいの!?」
「あ〜、実はな……」
ガウリイは、ちょっと照れくさそうに頬をぽりぽり。
「雪かきやら何やらしてるうちに、なんかオレ、すっかりこっちの生活が気に入っちまってさ。
できれば、もう少しこの家に置いてもらいたいんだが………ダメか?」
この思いがけないリクエストに、みんなびっくりして目をぱちくり。
それでもリナは、
「あんたも物好きねぇ……。
けど、そーゆーことなら、別に構わないわ。
その代わり、お客様扱いはしないわよ。
家事とか力仕事とか、きっちり労働はしてもらいますからね♪」
と言って、あっさり承知した。
なにしろ、春までにやっておかなければならない仕事は、まだまだたくさんあったからだ。
けれどガウリイはそれを聞くと ぱぁっ!と顔を輝かせ、
「おう、任せとけ! 雪かきだって買い物だって薪割りだって、なんだってやるぞ!
ありがとう、リナ。これからもよろしくな!」
そう言ってリナの両手をぎゅっと握り、彼女がたじろくほどの勢いでぶんぶん振ったのだった。
アメリアとゼルはこっそり目を見交わした。
どうやら、ガウリイが気に入ったのは、地上の生活と言うより…………
「あ、そーだ、ガウリイ。 あんたが持ってる“カミナリおこしの剣”、あれ貸してちょうだい。
冬の間、ちょっと研究してみたいから♪」
「“カミナリおこし”って何だよ。ありゃ“雪起こしの剣”だ。
けど、あれならもうオレの手元にないぞ」
「ええっ! どうして……!?」
「そりゃそーだろ。 あれがなくちゃ雪が降らせないんだから。
ルーク達が帰るときに一緒に持って帰ってもらったよ。
今頃は他の担当者が使ってるんじゃないかな?」
「そんなぁ〜〜っ!!」
「面白いことになってきましたね、ゼルガディスさん♪」
「ああ。 当分の間、退屈せずに済みそうだ♪」
二匹は顔を見合わせ、ひそひそにまにま。
そして、スリッパを振り回して八つ当たりしているリナと逃げ回るガウリイを放っておいて、
「じゃ、あとは若い人たちだけで♪」と、さっさと暖かい家の中に入ってしまった。
その夜。
やかんがしゅんしゅん湯気を立てているストーブの前で。
美味しい晩ご飯にすっかり満足した魔道士と雪降らしが、
美味しい香茶を飲みながら春のお楽しみについて話していた。
「春と言えば花見がデフォだけど、その前に忘れちゃいけないのが野草摘み!
フキノトウでしょ、ツクシでしょ、ノビルでしょ、ヨモギでしょ〜♪」
「うんうん♪ 天ぷらに、おひたしに、酢味噌和えに、よもぎだんご!
オレ、だんごは砂糖ときな粉がいいな〜♪」
「あたしは断然あんこ派だわ! くぅぅ〜っ、待ち遠しい〜っ!!
もちろんあんたも作るの手伝うのよ、ガウリイ!!」
「おうっ! いっぱい摘んで、いっぱい作ろうな、リナ!!」
花よりだんご。
さて、その次は……?
「ガウリイのやつ、雪降らしのくせに春まで居残るつもりか?」
「むにゃむにゃ…… よもぎだんご、つぶあんでお願いひま…… ふあぁ〜〜」
雪はその後もまた何度かリナ達の村に降った。
(さすがにあんなドカ雪が降ることはもうなかったが)
そしてその雪は、ほんのりカレーの匂いがしたらしい。
・・・・おしまい
P.Iさんに頂きました
元ネタ本:『あめふり』『よもぎだんご』 さとうわきこ/著 福音館書店/刊
↑懐かしい絵本です♪小学生の頃読んでました。
それにしても、雪ふらしのみなさん…そんな理由で(爆)
きっと次の年からはこれに懲りてリナちゃんの住んでる地域はほどほどに降らせそうです(笑)
薪はガウ君が割ってくれるから、毎年ぬくぬくな冬を過ごすんでしょうね♪
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