赤唐辛子、青唐辛子、黒胡椒、白胡椒、肉桂に山椒にカレーパウダー。
リナの家の煙突からは、辛い辛い煙がもくもくと立ち上り、たちまち空一面に広がった。
そしてその煙が雪雲に届いたとき。
「ふぁ? は……はっくしょん!!」
「何だっ!? め、目が……目が、痛てぇ〜っ!!」
「くしょんっ! ふぇーっくしょんっ!!」
雲の上から盛大なくしゃみと呻き声が聞こえてきた。
「へっぷ、へくしょん!」
「ふぇーっくしょい!ちくしょー!」
「へくしょん!へ〜くしょん!」
くしゃみの勢いは止まらない。
おかげで、分厚かった雲のあちこちに、ぼこぼこと穴が開きはじめた。
「ふふん、効いてるみたいね」
屋根裏の灯りとりの窓から這い出し、空を見上げて不敵に哂うリナ。
「さーて、運動して体も温まったところで、ぼちぼちいくわよっ!
知ってる人には懐かしい大ワザ! かーみー○ーぜーのっ……!」
「「「ふえぇぇぇぇぇぇぇっくしょおおおんっっっ!!!」」」
そのとき、ひときわ大きなくしゃみがして、
穴だらけの雪雲は、あっという間にばらばらになった。
「「「うわっ! わああああ〜〜〜〜〜〜っ!!!」」」
そして雪降らし達はたちまち雲の隙間から地面に落っこちてしまった。
「思い知ったかっ!!」
かんじきを履いて出てきたリナは、
自分達が降らせた雪に埋もれてもがいている雪降らし達の前で仁王立ち。
「お前さん、ムチャクチャするなぁ……」
よっこらしょと、最初に抜け出した金髪の男が、呆れ顔で言った。
「ムチャクチャはどっちよっ!!
いくらこの辺が雪の多い地方だからって、いっぺんにこうもたくさん降らせることはないじゃない!
おかげでこっちは毎日毎日寒い思いをさせらるわ、雪かきも雪下ろしも追いつかないわ、
まったく、いい迷惑だわっ!!」
「しょーがねぇだろ。俺たちにだってノルマっつーもんがあるんだよ」
「それが達成できるまでは、女房にも会えやしねぇ……」
ぷりぷりしているリナに、後の二人の雪降らしがぼそぼそと言い訳する。
「うんうん。ザングルスは新婚さんなんだよな。
ルークは今ミリーナに熱烈アタック中だし。 あ、ミリーナってのは霜下ろしの娘なんだ」
律儀に解説する金髪の男。
「ふ〜ん……。
つまりあんた達は、奥さんや彼女に早く会いたいばっかりに、あーんなドカ雪を降らせた、と」
「「…………すんません」」
リナにじろりと睨まれ、二人は首をすくめる。
傍でほけ〜っとしていた金髪男も、リナに「黙って見てたんならあんたも同罪っ!」と一喝され、
しゅんとうなだれた。
「仕事をいいかげんにやっつけるよーな男はモテないし、出世もできないわよ!
……ところで、これ落としたの、誰?」
そう言って、リナが取り出したのはあの金ダライ。
すると金髪の男が、なぜか嬉しそうに しゅたっ!と手を挙げた。
「はい!オレ、オレ! さっきうっかり蹴飛ばして、落っことしちまった♪」
「きーさーまーかぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
ぱっかーーーーんっ!!!!!
リナは男の脳天めがけ、力いっぱいタライを振り下ろした。
To be continued...
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