『リナのたまご』1〜5話はこちらにあります。先にお読みください。
それは突然の出来事だった。
リナのたまごを暖め初めてから3ヶ月過ぎたある日の早朝。
巾着袋に入れ首から下げていたそれがブルブルと震えだした。
「なんだ?」
取り出して掌に乗せガウリイはまじまじと見つめた。
淡く光っている。
どうしたら良いのか考えているとブルブルと震えるリナのたまごはガウリイの手からぽろりと落ちる。
そしてベットの上をコロコロと転がり布団の中へ。
「?」
手から落ちた衝撃で転がったと言うよりも自分の意志で転がっていったようなたまごの動きにガウリイは首を傾げる。
布団を捲ってたまごを確認しようとした時、ぼふんっ。と煙幕でも出てきそうな音がして布団が膨らんだ。
ちょうど人1人分くらいだろうか?
もそもそと動いている。
ガウリイが指でツンツンと突っつくとソレはまるで猫のようにビクリと反応した。
「……えーっと、おーい?」
果たして生まれてきたのはなんなのか。
昆虫、爬虫類、鳥か…首が三つある怪獣や竜か、それとも水木ワールド突入か。
そう言えば伝説上の生き物と言えばアレもあったな…とガウリイはふと思いついた。
蛇のようで蛇でないずんぐりむっくりのアレ。
アレは何だったっけ?
ガウリイは腕を組みうーんと唸る。
チュパなんとか…チュッパチャップス?
「あぁいや違う…チュパカブラ…うん?もう少し短い名前だったか?」
やっと生まれたリナそっちのけで考える。
確か何かの名前に似ていたはずだ…なんだっただろう?
「あ、タケノコ!…いや、カズノコ?」
何か違う。少し違う。大分違う。
うーんとこめかみの辺りをぐりぐりとしながら考えるガウリイ。
「なんとかノコ…ノコノコ…キノコ、ハチノコ…あの子どこの子?って違う。えーっと…」
「それって、ツチノコ?」
「おぉ!それだそれ。ツチノコ!」
ぽんと手を打ちそしてそのままの姿勢でガウリイは止まった。
僅かな間にすっかり忘れていたが、たまごが孵ったのだった。
おそるおそる声をかけてきた方へと顔を向けるとうこちらを見上げている女。
どうやら首が三つある怪獣ではなさそうだし、虫や鳥でも無いようだ。
妖怪…の線はまだ捨てきれないが…と思う。
「…リナ?」
一応確かめるために聞いてみるガウリイに彼女は、「そうよ」と答えた。
栗色の長い髪。細くて白い肩。赤みの強い瞳。
どう見ても人だ…たまごから人が生まれた。
目をぱちくりさせるガウリイに彼女は微笑んだ。
「ねぇ。」
「うん?」
「お腹空いた。」
その言葉に合わせるようにぐぅとお腹が鳴った。
彼女と、そしてガウリイの。
「あ…」
「説明は後からするから、とりあえずご飯。」
「う、あー……今、作るな。」
「うん。」
ベットから出てキッチンへ向かう。
そのドアの前で立ち止まり彼は振り向いた。
どうしても気になることがあったのだ。
「なぁ…一つだけ先に聞いても良いか?」
「ん?」
首を傾げるリナを見つめ彼は真剣に訪ねた。
「リナは、ツチノコじゃないんだよな?」
「…当たり前でしょ!さっさとご飯作りに行きなさい!!」
一瞬意味が分からずキョトンとしたリナだったが次の瞬間ガウリイの顔めがけてスリッパを放り投げた。
それは見事に顔面にヒットして、パコペン。と間抜けな音をたてて床に落ちる。
イテテ…と鼻をさすりながら彼はキッチンへ。
それを見届けた後、リナは「はぁ…」と溜め息。
「なーんか、変な人に育てられちゃったなぁ…」
悪い人じゃないんだけどねぇ…と、身を起こしてベットの周りをキョロキョロしながら彼女。
その目がベットサイドの書類に止まる。
無造作に置かれたそれの一つを手に取り、「ふーん」と頷くと指をパチリと鳴らした。
続く…
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