リナのたまご

07 【 調理 】





さて。とキッチンに立ちとりあえず冷蔵庫を開けるガウリイ。
一人暮らしには大きすぎる冷蔵庫の中身は食材でぎっしり。
いつリナが孵化しても良いように常に食材のキープは忘れなかったのだ。
たまごを暖め始める前では考えられないほど生活感満載のキッチン。
冷蔵庫だって前はアルコールとミネラルウォーター。
あとはつまみになるようなものが入っていただけだというのに。
随分と生活スタイルが変わってしまったとガウリイは思う。


「うーん。何を作ろうか…」


ようやく空が白み始めてきた時間帯。
朝っぱらからこってり、重いものはなぁ…と腕を組む。
そういえば先週習った料理は美味くてサッパリしていて簡単に出来たことを思いだしガウリイは鼻歌混じりに食材を出した。
リナは美味しいと言ってくれるだろうか?
好き嫌いがあるなら先に聞いておかないと…考えながらトマトの皮を剥いていると彼女の声がカウンターの向こうから聞こえた。


「あたし、基本的に好き嫌い無いから。」


その声に顔を向けるとダークグレーのソファに座って新聞を読んでいる彼女の姿。
中に着た山吹色のキャミソールがカーキー色のワンピースに良く映えて…あれ?どこかであの服見たような…
ガウリイは首を傾げた。
この家に女の子用の服などあっただろうか?
そう思っているとリナが新聞から顔を上げこちらを見て笑った。


「この服なら、ベットの横に置いてあった絵を参考にさせてもらったわ。」
「絵?あぁ…そう言われてみれば企画書のデザイン画と同じ服だ。」


納得したように言うガウリイに彼女は、自分の仕事でしょーすぐ気が付きなさいよ。
と呆れ声で呟いてまた新聞へ視線を戻す。
そういえば新聞もいつ持ってきたのだろう…。
考えが顔に出ていたのだろうか?また聞くよりも先に彼女は答えた。


「服も新聞も魔法で…って、もしかして全然あたしについての知識無し?」


きょとんと首を傾げる彼女。
リナについての知識?
知識って言っても…何が生まれるのかすら知らなかったしなぁ…
アメリアは戦争がどうのこうのと言っていたようなきがするけどあんまし覚えていないんだよなぁ。
とガウリイは首をかしげ結局覚えていたことだけを口にした。


「えーっと、リナのたまごが伝説級ってことなら聞いたけど…」
「あっそ。じゃぁそれも後でまとめて説明するから早く朝ご飯。」


お腹をさすって腹ぺこアピールする彼女。
妙に幼いその動作にガウリイはクスリと笑うと朝食の準備を再開した。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「ん〜〜美味しい!」


幸せいっぱいといった表情でホットサンドにかぶりついているリナをガウリイは満足そうに眺めた。
料理教室に通って良かったとあらためて思う。


「リナ、これ!このスープもサッパリしてて美味いぞ。」
「どれどれ…んっ冷たくて美味しい。」


自分が食べるのも忘れてリナに進めると、その小さな身体の何処に入って行くのか不思議なくらい彼女は食べまくった。
朝だからこってりしたものは…と思っていたはずなのに、気が付けば喜んでもらえるのが嬉しくてガウリイは次から次に料理を作ってはリナの前に並べていた。


「ん〜この酢豚のお肉ジューシー♪」
「こっちは?この煮物も良い感じだとおもうんだ!」


ガウリイがそう言うとリナは芋とイカの煮物をぱくりと口に入れ


「ん〜もうちょっと時間をおいた方が味が染み込んで美味しいかも。でも味付けは満点ね。」
「そっか。」


結局、大量に作られた和・洋・中とバラバラの料理をリナはぺろっと食べてしまうとようやく本題の話しを始めた。


「で、さっそく説明入るけど…そのまえに」
「ん?」
「それ、何?」
「桃のシャーベット。昨日作ったんだ。」
「デザート?」
「うん。あ…もう食べられないか?」
「たべる。」


手を出すリナにそれを渡しガウリイは彼女の前に座った。
スプーンで掬って口に入れながらまた幸せそうにリナは笑う。


「美味いか?」
「うん。美味しい。」
「それにしても良く食うなぁ。」
「悪い?」
「いや、美味そうに食ってくれるから嬉しいけど。」
「仕方ないじゃない。かれこれ600年振りのご飯なんだもん。」


そうか。と頷きかけてガウリイははて?と首を傾げた。
600年振り?


「あ、そうね説明先にしておかないとね。まぁ貴方も知ってると思うけど、あたしは人間じゃないわ。」
「えぇ!?じゃぁやっぱり、ツチ」



 スパンっっ!!



景気のいい軽い音が響く。
思わず声を上げたガウリイの頭めがけてリナはスリッパを振り落としたのだ。


「言っておくけどあたしは、妖怪でも無いし、宇宙人でも竜でも無いし、ましてやツチノコじゃないから!」
「イテテ…冗談なのに。」
「冗談に聞こえないのよ!」


涙目で頭を押さえるガウリイ。
じゃぁリナはなんなのだろう。
見た目は人だ。17,8の女の子。
でもご飯が600年振りと言うことは年齢は600歳以上って事だ。
ものすごく若作りだ。
いや若作りを越えてこれは発育不良…と言うべきなのか?
ガウリイはリナの胸の辺りをまじまじと見つめた。
確かに最近の女の子に比べて小さいかもしれない。
年齢が600歳を越えているということはもう大きくなる望みは無いのかも知れない。
そして腕を組み考えていたガウリイはうんと大きく頷くとがたんと椅子を鳴らして立ち上がりリナの肩に手を置いた。
妙に真剣な面もち。


「リナ。」
「なに?」
「600歳を越えても、胸の発育が後れていることを気にする気持ちも解る。」
「はぁ!?」
「でもなリナ。だからって自分は人間じゃない。なんて現実逃避はよくないぞ。」
「……っ」
「現実を見つめるんだリナ!お前の胸は小さい。確かに小さい!最近の女の子の平均からしてみてもかなり平らに近いだろう!でもっ」
「ガウリイ…言いたいことはそれだけ?」


地を這うよう。
まさにその言葉通りの声がリナの口から漏れる。
部屋の温度が一気に真冬並に下がる。
ブリザードだ。
部屋全体に雪が吹雪いて見えるのは気のせいなのだろうか?
そして小刻みに震えるリナの身体から危険度100%のオーラが垂れ流されているのもやはり目の錯覚なのだろうか?
とガウリイは思わず後ずさる。
が、時既に遅し。


「現実逃避でもなんでもなく!あたしは魔法使いだってのよ!!」


すっぱ〜〜〜ん!!と、気持ちがいいほどスリッパが鳴る。
それ何処に隠して居るんだろう…と頭を押さえながらガウリイは思った。




続く…

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Long novel



2010.03.05 修正版UP