「…マホーツカイ?」
「魔・法・使・い・!」
「魔法…」
魔法使い…とはアレか?
ホウキで空飛んでお届け物したり、動く城を持っていたり、温泉経営してたりするアレ?
「言っておくけど、あんたの考えてるのとは違うから。」
「ジブ…」
「違うわよ。」
ぴしゃりと言ってからリナは大きな溜め息を付いた。
なんでこんな変な人に育てられちゃったんだか…と思うものの既に諦めている彼女。
「もっと解りやすく言うと、ランプの精みたいなもんよ。」
「ランプのって願い事叶えてくれるアレか?」
「そっ。あ、でもあたしが叶えられる願いは1つだけよ。」
良くあるベタな昔話だと3つなんだけどね。と彼女は言う。
そしてシャーベットを全部食べ終えスプーンを置くとずいっとガウリイの鼻先に指を突きつけ
「いーい。叶えて上げられる願い事は1つだけ。でもって”願い事を増やして下さい♪”とか言う反則臭いのは絶対駄目。」
そう言うと彼女は椅子に座り直し、何か質問は?と問う。
質問と言われても…と少し困ったようにガウリイは呟く。
そう言えば昔話だと叶えることが出来ない願い事はもっと多かったんじゃなかっただろうか?
「なぁ、願い事を増やしてくれって言うの以外なら何でも叶えられるのか?」
「うーん、まぁ叶えられるわよ。それこそ世界中の人間を殺してくれ…って願いでも叶えてあげられるけど?」
恐ろしいことを彼女は言う。
そんな馬鹿な願いがあるものかとガウリイは思う。
リナが言うには願い事を叶える精霊や魔法使いにはそれぞれ魔力レベルがあり、叶える願い事の数によって色々制約が出てくるらしい。
願い事の数が多ければ多いほど一回の願いに使える魔力が少なくなり制約も多くなるのだ。
例えば、
『死人を甦らせることは出来ない』
『人の心を操ることは出来ない』
『命を奪うことは出来ない』
などなど。
そして、魔力レベルが低い魔法使いの場合だとシンデレラのように数時間しか願いを叶えてあげられないのだ。
カボチャの馬車やドレス、硝子の靴はリナ曰く実話らしい。
「あたしは自分で言うのも何だけど魔力は特級。だから制約無しで願いを叶えて上げられるのよ。1つだけなんだけど。」
あ、でも。と彼女は悪戯っぽく笑って指を振った。
気に入らない奴の願いは叶えたくないし、それにあれでしょ?
あたしを孵化させるの結構大変だったでしょ。
殆どの人が途中であきらめたりしたから、酷い願いなんてのは叶えたことないけどね。と彼女。
「で?あんたの願いは何?」
「願い…うーん。そんなこと急に言われてもなぁ…」
ぽりぽりと頬をかきガウリイは天上を見上げた。
別にコレと言って叶えて欲しいと思う願いなど無いのだ。
うーん。と唸るガウリイ。
「まぁ、思いついたときにいつでも言って。でも1ヶ月以内に決めてくれなきゃ願い事叶えてあげられないから忘れないでね。」
「何故1ヶ月以内なんだ?」
「こうやって実体化しているのにも結構魔力を消費するのよ。今のあたしのキャパシティだとこうしていられるのは1ヶ月が限界なの。」
「そうなのか…」
「それ以上たっちゃうと願い事を叶える魔力がなくなっちゃうし。」
ガウリイは納得したように頷きふと、彼女が今まで叶えてきた願いと言うのはどんなものだったのだろうかと気になった。
自分の願いの参考までに聞いてみると、そうねぇ…とリナは首を傾げ
「どこの時代のどんな場所で生まれても戦争や内乱ばかりだったから”死んだ家族や友人を生き返らせて”とか…そういうのが多かったわね。」
「………。」
「ちょっとなんであんたがそんな顔するのよ!」
複雑な顔をしているガウリイ。
そんな彼にリナは笑って見せた。
別に平気よ?と。
するとガウリイはリナの顔を見つめ、うんとひとつ頷くと、
「俺、決めた。」
「願い決まった?」
「あぁ。俺の願い事はリナにやるよ。」
名案が浮かんだと言わんばかりの顔。
リナの方がきょとんと首を傾げた。
「願い事をあたしにくれるってどういう意味…?」
「そのまんまだ。リナの好きな願いを叶えればいい。」
な、良い考えだろ?とガウリイは言ったがリナは困ったように笑い無理よと首を振る。
何故だめなのだろう?
リナは願い事が無いのだろうか?
他人の願いばかり叶えてきてつまらなくはないのだろうか?
「遠慮しなくて良いんだぞ?」
「別に遠慮って事じゃなくて…」
「リナにだって願いの1つや2つや3つくらいあるだろう?」
「…無くは無いけど…」
「あ、やっぱあれか?一番の願いは胸を」
すぱんっ!
「それ以上言ったら殴るわよ。」
「…もう殴ってる。」
「今度はぐーよ!ぐー!!」
ふんっ。
とそっぽを向いてリナ。
それからやっぱり困ったような寂しいような複雑な顔で首を振り小さな自分の手を見つめた。
「本当に叶えたい自分の願いはね、叶えられないようになってるのよ。」
それも魔法の制約。
自分の魔力なのに、自分のためには使えないなんて変でしょ?
見つめた先で手を握ったり開いたりしながら彼女は言う。
しかしパッと顔を上げるとにっこり微笑んだ。
「でもね、誰かの願いを叶えるたびに感じるのよ。」
「…何を?」
「なんか、こう…身体の奥のずーっと向こうにある器に何かが満たされる感じ。」
「何かって何だ?」
「うーん。魔力に似てるけど、ちょっと言葉では表現できないわ。でもそれが一杯になったらあたしの願いも叶うような気がするのよね。」
リナの願いか…。
彼女はどんな願いを持っているのだろう。
胸を大きく…は言ったらぐーで殴られるよな、苦笑いするガウリイ。
「じゃあさ、願いが叶うとしたらリナはどうする?」
「うーん。そうねぇ…美味しいもの一杯食べたいわね。」
飯ならさっき散々食っただろうに。
そんな突込みをガウリイは飲み込み他には?と聞いた。
「他には……」
「何だ?」
「世界を見てみたいわ。」
世界?
世界なら沢山見てきたんじゃないんだろうか?
ガウリイはそう思ったが以外にもそうではないらしい。
願いを叶えるために生まれ、叶え終わると元のたまごに戻ってまた何年も魔力が満ちるのをじっと待つだけなのだとリナは言った。
それは少し悲しい気がしてガウリイは思わずリナの手を取った。
きょとんとする彼女に微笑みかけ、
「じゃぁ俺がリナの願いを叶えてやるよ。」
「へ?」
満面の笑みがそこにはあった。
続く…
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