「ねぇ…あんたの言う世界って、コレ?」
チケット売り場から笑顔で戻ってきたガウリイをリナはじと目で見上げた。
彼女たちがいるのはいわゆる遊園地。
ただ今”世界の美味いもの祭り”と称されたイベントの真っ最中なのである。
入場口に吸い込まれていく人の波にぼんやり視線を動かすリナは、はふっ。とため息をついた。
別に呆れているわけでも怒っているわけでも無いのだがガウリイは焦った様にわたわたしている。
「あ、いや、ほら、」
「何よ?」
「あー、なんだ…願いを叶えてやるって言ったけどさ…そう簡単に世界中に連れて行ってやれないから…」
「そりゃそうでしょうね。」
「だからとりあえず…」
とりあえず考えた末が遊園地だったらしい。
怒ってるか?と聞いてくるガウリイは大きな身体をきゅっと縮めている。
まるで叱られた犬ね、とリナは笑った。
「別に怒ってないわよ。こうゆうのって来るの初めてだから。」
「ホントか?」
尻尾があれば絶対に千切れそうなくらい振っていただろうにとリナは思う。
魔法でくっつけてあげようかしら?と冗談半分考えていると、思い出したようにガウリイが声を上げた。
「そういえば…」
「ん?」
「…俺も遊園地なんてくるの、初めてかも…」
少し照れくさそうに彼は頬を掻いた。
様子を伺うようにちらりと向けられた青い目。
リナは思わず噴出しガウリイの手を引いた。
「んじゃ、初めて同士楽しみましょ!」
「おう。」
入場口の列に並びゲートをくぐるとそこはもう別世界。
可愛らしい建物が並び店先にはマスコットのぬいぐるみ。
聞こえてきた悲鳴に目を向ければ轟音とともにコースターが駆け抜けている。
しかし彼らが向かった先は可愛らしい建物の店でも、絶叫マシンでもなく…
「きゃー♪コレ美味しい!!」
「リナ!あっちの屋台もすっげー良い匂いしてるぞ!」
「どれどれ!!」
世界の美味いもの祭りに夢中なのであった。
あっちこっちの屋台を制覇し世界各国の美味しいものをたらふく胃に詰め込んだ彼らがふと気がつけば閉園まであと僅か。
両手一杯に自分たち用のお土産を持ったガウリイは出口へと向かうリナを呼び止めた。
「なぁリナ。」
「ん?何?」
「せっかくだから、アレ乗ろうぜ。」
丸一日遊園地にいたというのに、なんにも乗り物乗ってないのもなんか変だろ?
とガウリイは笑った。
「まぁ、別にいけど。」
ガウリイたちが列の最後尾に並んだところで係員が『本日はここで最後とさせていただきます。』と声を上げる。
ちょうどよかったわねとリナは手にしたジュースを飲みなが呟いた。
あまりのタイミングの良さにガウリイは、「今の魔法か?」と尋ねるとリナは「運がいいのよ。」と笑った。
きらきらと花火のように色を変える観覧車を見上げているとなんだかわくわくしてくる。
ガウリイは両手に持った荷物を片方の手に持ち直すと隣のリナの手を取った。
そのままリナの手を引き順番が回ってきた観覧車へ乗り込んでいく。
ゆっくり回るその中でもつないだ手は離さなかった。
「ねぇ、ガウリイ」
「ん?」
静かなリナの声。
窓の外に見えるきらきら光る夜景。
そこから視線を戻し隣のリナを見ると照れくさそうな顔。
「ありがとね。」
今日は本当に楽しかったのよと彼女は微笑んだ。
よかった。とガウリイも笑ったところで彼女はつないだままの手に気がついたらしい。
顔を赤らめ手を引いた。
小さなぬくもりが遠ざかる。
それを少し残念に思いながら、ガウリイはリナの横顔を眺め続けた。
「ちょ、ちょっと何よ人の顔をじーっと!夜景を見なさいよ。夜景を!!」と照れたリナにスリッパで殴られるまで。
それでもふやけた顔で、痛てぇなぁ。と彼は笑った。
「もう!ばっかじゃないの!」
プイとそっぽを向いた彼女の顔は真っ赤に染まっていた。
ずいぶん照れ屋なんだなぁ。
なんだかおかしくなって笑い始めたガウリイと、そのことにムッとしてキーっとなったリナとが観覧車を降りる。
結局ろくに景色も見ぬまま二人は遊園地を後にした。
暖かな心。
駅に向かう道すがら空を見上げるガウリイ。
街中じゃあまり星も見えないが月は綺麗だ。
隣を見るとリナも空を見ていた。
「なぁ。」
「んー?」
「またどこか行こうな。」
「どこかって?」
「いろんなトコ。連れてってやるからさ。」
少しの沈黙の後「うん」とリナは頷いた。
そして手のひらに小さな温もりが戻った。
続く…
|