「さて、今日の朝飯はっと…」
冷蔵庫を開けながらガウリイは思わず苦笑い。
食材が詰め込まれた冷蔵庫。
リナが消えて1年がたつというのに…。
こんなにも一人で食べきれないだろうという量を常に買い置きしている自分がおかしかった。
だからといって、食材を腐らせるなどという事は絶対にしない。
そんなことをしようものなら、『なにやってるのよ!勿体無いわね!』とリナに叱られてしまう。
「………もう、1年経つんだな。」
ガウリイは目を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん〜美味しいです!」
「うまい。」
昼時。
ガウリイが作ってきたお弁当に舌鼓を打っているのはアメリアとゼルガディス。
買いすぎた食材はこうして彼らのお腹に納められているのだ。
「また、腕を上げましたねガウリイさん。」
「そうか?」
「はい!この煮物なんて絶品です!」
「確かに…まだ料理教室に通ってるのか?」
ゼルガディスに聞かれガウリイは、「あぁ。」と頷く。
アメリアは、リナが消えて以来どこか陰のあるガウリイをちらりと見た。
今や彼の料理の腕はプロの料理人以上かもしれない。
誰の為に彼が今も料理を続けているのかは明白だ。
でも、彼女はここにはもういない。
そう思うと残念で仕方が無い。
アメリアにはどうすることも出来ない事だったのだが、悔しさがこみ上げてくるのは事実だ。
そんな事を考えていたときだった。
ゼルガディスが思い出したように、
「そういえば、明日新しい社員が入ってくるって話知っているか?」
と言って、缶コーヒーを飲んだ。
ガウリイもアメリアも首を傾げる。こんな時期に?と。
「なんでも社長自ら交渉して、ゼフィーリアの大企業スィーフィード社から引き抜いてきたらしい。」
「…そうなんですか?」
「アメリア…お前一応フィルさんの秘書やってるんだろう?知らなかったのか?」
「はぁ。まぁ…とーさんそんなことしてたんだ。」
へー。と呟くアメリアに、呆れ顔のゼルガディス。
そして、彼の次の言葉にガウリイが反応した。
「しかし驚いたな。前にお前の家で見た彼女がスィーフィード社の人間だったなんて。」
肩をすくめて見せたゼルガディス。
そしてコーヒーをまた口に入れたところでガウリイに思い切り肩を掴まれ揺さぶられた。
「うぐっ、ごっ!」
「前に見た彼女って、リナのことか!?」
「が、ゴホゴホ!!」
「答えろ、ゼル!」
器官のほうに入ったのだろう。
咽るゼルガディス。
「が、ガウリイさん落ち着いてください!それじゃぁゼルガディスさんが喋れません!」
「…あ、すまん。」
なんとか冷静さを取り戻し揺さぶるのをやめる。
が、肩を掴んだ手から力は抜かない。
ゲホゲホとしばらく咳き込んでいた彼は、一体何なんだ。とぼやいた。
そんな彼にアメリアがずいっ!と詰め寄る。
「で!?引き抜きでウチに来るって言うのはリナさんの事なんですか!?」
「そうだ!リナなのか!?」
目が血走っているように見えるのは彼の目の錯覚ではないだろう。
ガウリイに、答えなければ殺す!と脅されているように感じるのも勘違いではないのだと思う。
別に答えない理由は無いし、これ以上巻き込まれたくはない彼は「そうだ。」と短く答えた。
何が何でどうなって、自分は今こんな目にあっているのかまったく理解できない。
しかし、触らぬ神に祟りなし。
傍観を決め込んだゼルガディスだった。
ガウリイはおもむろに立ち上がると「アメリア。」と固い口調で呼んだ。
「はい!」
「リナの連絡先…」
「すぐ調べます!」
きびきびと携帯を取り出すアメリア。
しかしボタンを押す前に後ろから声が聞こえた。
「調べなくてもいいわよ。」
もうここにいる。
その声。
ガウリイは振り向けなかった。
体が思うように動かない。
「久しぶりね。」
すぐ後ろに彼女がいる。
「元気だった?」
こんなに傍に。
ガウリイ。と名前を呼ばれゆっくりと振り向けば1年ぶりに見る懐かしい姿。
黒のスーツを着て立っている。
長い栗色の髪は今は1つにまとめて上げられている。
「…何故?」
ぽつりともらした彼にリナは微笑んだ。
悪戯っぽく。
「必要な書類を人事部に届けにきたの。」
その答えにガウリイは首を振る。
聞きたいことはそんなことじゃない。
するとリナはクスリと笑い「あんたの願いよ。」と告げた。
『俺の願いは―――――またリナに会いたい!』
立ちすくむ彼の前に立つとリナはその手を握った。
あんたの願い叶えに来たわよ。と微笑む。
「あの時の、俺の願い…?」
「そう。」
「じゃぁ、今叶ったから…リナは消えるのか?」
「消えない。」
何故?
そう聞いたガウリイにリナは、消えて欲しいの?と首をかしげた。
おかしそうに笑う。
「あんたの願いが最後だったみたい。」
「え?」
「ガウリイの願いを叶えて、やっと…あたしの身体の奥のずーっと向こうにある器が満たされた。今度はあたしの願いが叶うのよ。」
嬉しそうに。
そしてどこか照れくさそうに。
「ずっとガウリイの傍にいる。」
そう告げて、背伸びした彼女の唇がガウリイに触れた。
ずっと、ずっと。傍にいるから――――
Fin
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