「ねぇガウリイ。」
「ん?」
今日も豪華な夕食。
ぷりぷりの海老フライにたっぷりタルタルソースをからませて口に運びながらリナは言った。
食事が終わったら少し散歩に行かない?と。
「散歩?」
「うん。行きたい場所あるの。」
「どこに行きたいんだ?」
とガウリイが聞くと「秘密♪」と行ってリナは生春巻きにかぶりついた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「来たかった場所ってここか?」
ガウリイが聞く。
散歩と言うにはやけに遠い場所。
そこは最初にリナとガウリイが来た遊園地。
その観覧車に目をやりリナは頷いた。
とは言っても閉園間じか。
チケット売り場はとっくに閉まっていた。
さて、どうしようか?と思っていると、リナがガウリイの手を引いてゲートに向かう。
そして近くにいた係員に「大事なものを忘れてきちゃったの。場所はわかってるからとにかく入れて!」と口先三寸で丸め込んでまんまと園内に入った。
「…お前なぁ…」
呆れたガウリイにリナは笑った。
良いじゃない。入れたんだしと。
そして観覧車前の列に並んだところであの時と同じ。
係員が『本日はここで最後とさせていただきます。』と告げた。
「これ魔法か?」
聞くとやっぱり前と同じでリナは「運がいいのよ。」と答えた。
あの夜と同じ、花火のようにキラキラと色を変えるそれを見上げる。
ほどなく順番がきてガウリイはリナの手を引き乗り込んだ。
今日は、向かい合って座る。
ゆっくりと周る観覧車。
外を眺めていたリナが、ねぇ。と話し始めた。
「あたし、もうすぐ消えちゃうから。」
さらりと告げられた言葉。
え?と聞き返そうとしたガウリイだったが声が出なかった。
なぜなら目の前のリナの輪郭がぼやけはじめていたからだ。
まるで蜃気楼のように。
しっかりと手を繋いでいるはずなのに彼女のぬくもりがひどく遠い。
「リナ…」
「最期にガウリイとここに来たくて。」
にこりと笑った彼女の顔がぼんやりと歪む。
ガウリイはリナを抱き寄せた。
腕の中に確かに存在するはずなのに、触れている感覚は曖昧だ。
「いくな…行かないでくれリナ。」
「あんたに会えて良かった。」
「行くなっ!」
「…ん」
それ以上何も言わせない。
別れの言葉など聴きたくない。
ガウリイはリナに口付けたが、そのぬくもりも遠い。
リナは彼の胸に手を沿え身を離すと、ありがとう。と笑った。
「ありがとう。ガウリイ。」
「……リナ」
「ねぇ、あんたの願いは何?」
「え?」
「叶えられる願いよ。ずっと一緒にいる…以外で、何か無いの?」
波間に消えていく砂の城のように徐々に形を失っていくリナが、早くとガウリイを急かす。
でも声が出ない。何も思いつかない。
観覧車が回る。
ガタンと揺れて、てっぺんを過ぎた。
「…タイムリミット…」
「り、な?」
ガウリイの前でリナの姿が消えていく。
それまで以上の速さで。
手が空を掴みがくりと落ちた。
まだかろうじて見えているリナの手。
しかし触れることができない。
「リナ!」
「………。」
彼女が静かに目を閉じる。
涙が見えた。
ガウリイは何とかリナを捕まえようとしたがその手は虚しく空を掻くだけ。
バイバイ。と聞こえた気がした。
「待って、待って…まだ、まだ願いを言っていない!」
リナが光の粒となり消えていく。
その眩しさに目を細めガウリイは手を伸ばした。
リナの頬に。
「俺の願いは―――――」
眩い光は周りの音まで全て飲み込んで、呆気なく消えた。
ガタン
「お疲れ様でしたー…アレ?」
観覧車のドアが外側から開けられる。
顔を手で覆い俯いていたガウリイ。
横を見ればドアを開け首をかしげている係員の姿。
目の前の席には誰もいない。
リナは…消えたのだ。
続く…
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