結局会社は休んだ。
ガウリイは受話器を置くとソファに座るリナの横に腰掛けた。
小さな手に自分の手を重ねる。
「有給を取った。」
「急に…怒られない?」
「うーん。なんか慌ててたみたいだけどな。ゼルがいるからどうとでもなるさ。」
「…気の毒ね彼が。」
「リナ。」
「んー?」
「一緒にいよう。せめて傍にいられる間だけでも。」
リナは黙ってガウリイの肩に寄りかかった。
「あたし、こんなに弱くなかったはずなのに。」
ガウリイの所為だからね?
とリナは口を尖らせた。
ガウリイが自分を普通の人間のように扱うから。
いろいろ考えていたリナは、ふぅ。と息をつき紅茶が飲みたいな。ともらした。
「何がいい?」
「昨日の。アメリアが持ってきたってやつ。」
わかったとガウリイは立ち上がりキッチンへ。
リナはその背を眺めていた。
最初は変な人だと思った。
人のことを竜だとか、妖怪だとか、挙句の果てにはツチノコと疑ったり、願いをくれようとしたり。
いろんなところに連れて行ってくれた…そして人ではない自分を好きだと言う。
「…やっぱり、変な人。」
くすくすと笑うリナ。
ガウリイは紅茶を片手に首をかしげた。
何がおかしいんだ?と言ってカップを差し出す。
彼女はそれを受け取り微笑んだ。
「あんたで良かったと思っただけよ。」
「うん?」
「この時代にあたしを生まれさせてくれたのが。ガウリイで良かった。」
ありがと。
紅茶を口に運んでいるリナ。
ガウリイは隣に座りなおすとリナの手からカップを取った。
なに?と彼女が聞くより先に唇が触れる。
一瞬何が起きたのか解らなかったリナが現実に戻ったのは、カップをガラステーブルに置くかちゃんと言う音。
それがやけに大きく聞こえたと思ったときには口付けは深いものへ変わっていた。
息苦しさにガウリイの肩を押す。
「…リナ」
唇が離れる。
でも息がかかるほど近くに彼の顔があった。
「な、なにすんのよ…いきなり。」
真っ赤になったリナ。
ガウリイはリナの頬に手を沿え、恥ずかしさから顔をそらそうとするのを許さない。
「キスしたい。」
「なっ!?」
「リナにキスしたい。」
「…したじゃない。今。」
真剣なガウリイに押されて、リナはの思考いっぱいいっぱいだ。
それでも言い返すと、「もっとしたい。」と今にもキスを再開しそうな勢いで迫ってくる。
リナはそのガウリイの肩を力いっぱい押し返すと青い瞳を覗き込んだ。
「それがガウリイの願い事だって事で良いのね?」
そういうと彼は首を振る。
願いじゃないなら何?と聞くと、俺の我侭だ。と帰ってくる。
「我侭って…あのねぇ」
「叶えて欲しい願い事じゃない。俺の我侭だから自分で叶える。」
だからリナが嫌だって言っても無理やりキスする。
となぜか胸を張るガウリイ。
モノは言い様ねとリナは呆れた。
近づいてくる唇からリナは逃げなかった。
「愛してる。」
「………。」
「この先もずっと。」
「ガウリイ…」
抱きしめられ息ができなくなった。
幸せと、そして悲しみで。
傍にいたいのにその願いは叶えられない。
彼の願いが自分の願いと同じだから。
そんなのはおかしい、変だ!と思っても魔法の制約には逆らえない。
自分の願いに魔力は使えない。
それは動かせない事実なのだ。
「ありがと…ガウリイ。」
リナはただ微笑んだ。
そして決して言ってはいけない一言を飲み込んだ。
数日後には自分は消えるのだ。
もう二度と彼に会うことは無いのだ。
だから言ってはいけない。
”愛してる”だけは言ってはいけない。
リナは目を閉じ彼の唇に触れた。
続く…
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