「ねぇ、そういえばどこへ行くの?」
国境を越えて何日目だっただろうか、思い出したように彼女が呟く。
馬の背に乗り街道を南へ。
寒がりな彼女のために暖かい方向に進む。
別にどこかを目指しているわけではない。
一緒にいられるならばどこだっていいのだと彼は笑った。
「リナはどこに行きたい?」
逆に聞き返されて彼女は困ったように首をかしげた。
国から出たことが無いのだからどこに行きたいか聞かれても困ると。
しかししばらく悩んだ後、彼女は彼をを見上げた。
「ガウリイと一緒ならどこでも良い。」
その言葉に彼は微笑んだ。
優しい騎士の笑みでも、狂った男の笑みでもなく…。
頬が熱い。
彼女はそれを隠すように前を向いた。
くすくすと彼が笑う。
彼女はぷぅと頬を膨らませ、なによ馬鹿!と肘鉄。
そんな彼らの耳に旅人の噂話が届いた。
―――隣国の王が死んだ―――
彼らの動きがぴたりと止まる。
彼女から表情が消え、そして…
「自業自得よ。」
吐き捨てるように呟いた。
王は彼女の本当の父親ではなかった。
ただコレクションのために連れ去り、何番目かの妃に育てさせた養子。
そう、彼女は言っていた。
「あたし、あの男が大嫌いだった。」
何故だか解る?
そう聞かれ、首を傾けると彼女は話を続けた。
「腐った目。腐った声。腐りきった性格。」
全部大嫌い。
国民は苦しんでた。
でも何もできなかった。
だから自分も嫌い。
あの男を見ていると何もかも嫌いになっていく。
「…リナはちゃんと救った。」
彼はそう言うと後ろから彼女を抱きしめた。
不安定さに馬が不機嫌に鼻を鳴らす。
「何を救ったと言うの?救えなかったものばかりよ。」
「そんなこと無い。」
少なくても…俺は救われた。
リナの存在に救われていたんだ。と彼。
そして民も。
「リナがいたから、あの王の下…民は耐えてこられた。いつか姫が救ってくれると信じて。」
「…救ってないわあたしは。」
「救ったさ。王はリナを殺せと命じた…」
「実際死んだのは身代わりの人…ほら、あたしは何も救えてない。」
目を閉じた彼女。
「でも、民はリナが死んだと思った。王に殺されたのだと…そして立ち上がる力を得た。」
「何を言っているの?」
「いつかリナが何とかしてくれると、他力本願だった民に立ち上がる力を与えた。」
王女リナの死。
それは全てを変えたんだ、救ったんだと言われても彼女には納得できない。
そんな救い方があるものか。
そう言い返そうと目を開け振り向き…そして震えた。
「でももう良いんだ。リナはもう俺以外だれも救わなくたって良いんだ。」
民のことも国のことも。
もう気にする必要が無い。
にっこりと微笑むのは時々見える狂った顔。
「そう…ね。」
呟いて彼女は再び目を閉じた。
落ちてくる唇を受け入れる。
―――まだ彼の心は救いきれていない。―――
「愛してる。」
「…あたしもよ。」
Fin
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