歪む月

09 【 元姫 】





「あんた…本当にガウリイなの?」
「あぁ。」


頷く彼。
でも彼女には解っていた。
これは自分が知っている騎士ではないのだと。
じゃぁなんなのだろうこの男は?
いったい誰なのだろうか。
身体が震える。


「逃げるな。逃げないでくれ――リナ」


恐怖か逃避か。
目の前の男から少しでも離れようとしたがすぐに大きな手に捕まった。
抱きすくめられる。
強い力なのにどこか優しいのは変わらない。
やはりコレは自分が知っている騎士だ。
そしてコレが本当の彼なのだ。
彼女はおそるおそる彼の背に腕を回した。
覚悟を決めなくてはならない。
この愛と呼ぶにはあまりに汚く醜い想いを受け入れなければいけないのだ。
狂った独占欲。
でも裏を返せばそれは…雪のように真っ白な汚れることの無い想い。


「逃げない…だってあたしは生きてる。」


生きている。
と言うよりも”生かされた”と言ったほうが良いのかもしれない。
彼に、そして身代わりとして一生を終えた名も知らぬ女に。
だから逃げては駄目だ。
この男から逃げては駄目なんだ。
去れば、彼は狂う。
そして死が訪れる…自分が彼に殺されるか――彼が自らを殺すか。
どちらにせよ苦しいのに変わりは無い。


「逃げないわ。ガウリイ」


ぴくりと彼の肩が震えるのがわかった。


「傍にいる。」
「…リナ―――



逞しく強い腕は彼女を粗末なベッドに押し付けた。




続く…

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Long novel



2010.03.05 修正版UP