The parallel world

06 【 再会 】





「ちっ…しけてんなぁ…」


旅の途中突然現れた盗賊をリナが呪文で吹っ飛ばすのはいつもの事だ。
悪人に人権は無いを合言葉に、女だろうと男だろうと容赦しない。
少し前の街で、このあたりを牛耳る盗賊団の話を耳にはさんだ時嫌な予感がしたのだ。
『盗賊いぢめはダメよ』と一応言ってみるものの…無駄だと悟るとガウリイも黙った。

そして昼を少し回った時刻。
それは現われた。

『おっとこの先は通れないよ。通りたければ有り金アタイ達に…』
『ディルブランド』

一瞬。
容赦は無い。
そして冒頭の言葉を吐いたのだ…もちろん、懐を探って取るもの取ってからだ。


「リナ…流石にもうちょっと手加減すべきだと思うの」
「あー…まぁ、確かに女盗賊ってあんまいないからなぁ…絶滅しないように手加減はしないとなぁ…」


そう言いながら重くなった財布を仕舞い込み、近くで伸びていた女盗賊Aの胸倉をつかむとガクガクゆする。
見た目だけだとどっちが悪人か解らない。
どうやら、叩き起こしてアジトに行くつもりらしい。
ガウリイが呆れたため息を吐くと、全然起きない盗賊の頬をぺちぺちしながらリナが呟く。


「女盗賊団って結構目利きが多いから…普通の盗賊連中よりは良いもの持ってる可能性が高いんだよ…」
「…そうなの?」
「まぁ、でもあれだな…この連中は外れっぽいけどな…」


ガウリイには当たりかハズレかなんてわからない。
盗賊のどの辺を見ればそれがわかるのだろうか?


「こいつらの武器どう思う?」
「どうって…うーん。おもちゃみたい」


足もとにあった剣をちょんとけり上げ手にしてみる。
宝石がついてキラキラして高そうだが、どうみてもこれは実戦向きではない。
そういえば、これは売れないのだろうか?
リナは見向きもしていない。
不思議そうに剣にちりばめられた宝石を見ていると、彼が笑う。


「それ、宝石も金もイミテーションだ。どうせ旅人を色気で油断させて襲って荒稼ぎしてたんだろうが…裏でもっと悪どい商人にカモにされてたみたいだな」
「へー」
「そもそも悪趣味だろ。アジト行ったところでめぼしいものは全部すり替えられるか、安値で買いたたかれるかして残ってないと思う」


リナが女盗賊の背に活を入れると、ぐぇ…と潰れた声がした。


「そこまで分かってるのに行くの?」
「まぁな。路銀はあったほうがいいじゃないか♪」

「………ぅ」

「お、起きた起きた。さてと…じゃぁあんたらのアジトに案内してもらおうか?」


悪魔の笑顔。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「もっとマシなもの持ってねぇのかよ…」
「リナ、それ悪役の台詞」


案内させた宝物庫の真ん中で胡坐をかきながら宝石を吟味しているリナ。
戸口の傍ではすっかりおとなしくなった女盗賊段の頭が、リナの一言一言にびくついている。
それはそうだ。
無理やり案内させられ…アジトにたどりつき…残っている仲間を集めて反撃ののろしを上げる前に問答無用で吹っ飛ばされたのだ。

『大人しくしてないと、こちらのお頭みたいに吹っ飛ぶことになるぞ』

男女平等とはよく言ったものだとガウリイは変な納得をしていた。
それにしても…ちらっと宝物庫の片隅に視線を走らせる。
リナも気が付いているのだろう…が、さっきから…見ないふりをしている。


「ねぇ、リナ…」
「んー?」
「部屋の」
「おっ!これレア物の銀貨じゃん!!」
「…隅で」
「おぉ!!小さいけど良い宝石もあるじゃないかっ!!」
「………」


部屋の隅で素巻きにされてびちびちしている人…どうしようか?
と言いたいガウリイの言葉をリナはことごとくつぶそうとする。
だが、しかし…この抵抗も長続きはしない。
女盗賊団のお宝があまりにも、シケているためである。
イミテーションが8割。
めぼしいものは無しな状況ではガウリイの言葉をさえぎるのも大変だ。
リナはあきらめたように見ないようにしていた、びちびち元気よく跳ねる簀巻きを指差した。


「助けてやっても良いけど縄解いてやるだけだからな…下手に身の上話なんか聞くなよ…」
「わかったわ」


こういう場面で出会うようなのは大抵面倒事に巻き込む相手だとリナが言うのでガウリイも頷いた。
路銀は十分あるからゆっくりしたいし、ここで依頼なんて引き受けたら…港町で開催される『一日限り!!海の幸銀貨5枚で食べ放題!!』の祭りに間に合わないかもしれない。
それだけは避けたいというのが本音だ。
ガウリイは簀巻きの人に近づくと顔を覆っている布をはずしてやる。
そして『あっ』と声を上げた。


「………えぇっと…ねぇ、リナ?」
「んー?」
「身の上話とか、捕まった理由とか聞いちゃ駄目なのよね?」


背を向けて宝石の選別を続けるリナに、困ったようにガウリイは話しかけた。


「あぁ。面倒事は御免だ。海の幸食いたいし」
「…ってことだから、猿ぐつわ外すけどヨロシク」
「………」


何がヨロシクなんだと、わけのわからない前置きをするガウリイの声を背で聞いていたリナだったが、そこはあえてツッコミを入れないことにした。
身の上話は聞かないって宣言なら問題ないからだ。
しかし…


「…ぷはっ!!お久しぶりですね、ガウリイさん。…それからリナ!こういう場面では助けた相手の身の上を聞いて協力するのが正義だと思うんだけどな!」

「………」

「そんななんてことない小さな出会いから、思いもよならない運命のいたずらに論ろうされ、巻き込まれ、気がつけば悪を倒し世界を救うため仲間を集めるっていうヒーローの王道イベントを無視するなんて正義じゃないよ!」


無駄に元気な声と、目的を見失った正義論には聞き覚えがある。
リナが恐る恐る振り返ると、ガウリイに縄を解いてもらって布から這い出す…某国の第二王子の姿。


「…アメリア…なんでここに…」
「そうそう。そうやって理由を聞くのが正しい人の道ってものだと…」
「いや、そうじゃなくて…」


どっと疲れが増した気がしてリナは大きなため息をついた。




Fin

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Long novel



2010.08.28 UP