The parallel world

05 【 忍び足 】





「…もう限界だ」


暗い室内で意を決したようにリナは立ち上がった。
頭に浮かぶ顔は金髪のそれ。
妙ないきさつで知り合い、なんだかんだと2年近く共に旅をしてきた…相棒。
あっちは”保護者”などと言っているが、認めたことは一度もない。

そもそも保護者などと言える立場なのだろうか?
もの覚えは悪い、財布はよく無くす、人の話は聞いていないどころか耳に届いてもいない。
だから、旅生活のほぼすべてリナが面倒みているのだ。
それに加え…度の超えたスキンシップの数々。
胸の押しつけ、夜這いなど日常茶飯事。
隙をついてのキスもこの頃では数え切れない。

保護者にあるまじき行為であることは明白だ。

そんな自称保護者が隣の部屋にいる。
リナはごくりと喉を鳴らすとゆっくり壁に近づいた。
両手を付き、こつんと額を当てて、壁越しに気配を探る。
上手くやらなければ獣並みの勘でもって悟られる。


「…ガウリイが悪いんだからな…」


ぽつりと呟くと、唱えてあった呪文を壁越しにかけた。


「眠り」


ぴたりと耳を当て物音を確かめる。
そのまましばらく待ち、忍び足で廊下に出て左右の確認。
酒場も閉まり宿の中は静かだった。


「よしっ!」


ぐっと握りこぶし一つ。
念のためにと魔法で鍵を開け室内に入ると、ベッドですやすや眠っているそれの姿。
丸めた毛布を抱き込んで、すっかり夢の中だ。

ギシリ…とベッドに腰をおろし、頬にかかった長い前髪を払うと伏せられた長いまつげが目に留まる。
普段は邪魔じゃないかと思う髪に隠れてよく見えないからなんだかおかしい。
そっと頬を撫で立ち上がろうとしたところで手首を掴まれた。
『寝てたんじゃないのかよ…』と振り向くと笑みを浮かべたガウリイがいた。


「リナが夜這いに来てくれるのかと思って寝たフリしてたのよ」
「んなわけあるか、ばーか」
「…で?どこいくの?」


まさか盗賊いじめ?と聞くそれは眠たげだ。
どうやらスリーピングはちゃんとかかっていたらしい。
根性で起きたとでも言うのだろうか…


「だめ、よ…リナ…」
「駄目って…いい加減ガキ扱いやめろよ」
「そんな扱いしてないでしょ?」
「してる」
「してない」


無意味な押し問答。
リナは深いため息をつくとマントの下に手を伸ばした。
少し眠気が引いてきたのかガウリイがゆっくり身を起こす。
長い金髪が肩からこぼれおちた。


「これ。もってみろ」
「…うん?何、サイフ?」


革袋の中で、何だか悲しげにちゃりちゃりと数枚の硬化が擦れる音がするだけだ。
リナは酷くまじめにガウリイの肩に両手を乗せた。


「それが今ある旅費の全てだ…」
「………」


しばらく考えるそぶりを見せた後ガウリイは呟いた。


「この状況じゃ…仕方ないわね」


今度こそ『よしっ!!』と拳を握るリナ。
じゃぁ、行ってくると手を振り出かけようとしたそれのマントをぐいっと引っ張るとガウリイは、
『わたしも行くわ』と微笑んだ。
そしてリナの返事も待たず、パジャマを脱ぎ始めるものだからたまったもんじゃない。



スパンっ!!!



今夜も景気良くスリッパが閃いた。




Fin

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2010.08.28 UP