校舎の裏手にゴミ捨て場がある。
クラスや移動教室のゴミを掃除当番が運んで捨てるのだ。
もちろん学校にエレベーターなんて文明の機器は無く階段を下りて上ってと結構大変だ。
割り振られた掃除場所によったら、山のように空き缶や紙なんかがある。
そんな、ちょっと遠慮したい役を常に押し付けられる哀れな生徒が一人…今日も大きなゴミ入れを引きずるようにして歩いていた。
「あいつら…覚えてなさいよ!次はパフェくらいじゃすまないんだからっ!!」
握りこぶしを作って叫ぶ。
毎度のことだ。
今日こそはゴミ捨ての役はやらない!と心に決めていても友人達はそんな決心を巧みに揺るがしてくる。
今回は駅前のパフェに釣られた。
美味しいものと奢りに弱い…そんな弱点を突いてくるなんて卑怯だと思う。
彼女がここまでこの役を嫌がるのには理由があった。
それは―――
「リナっ!」
「げ…っ」
ゴミ捨て場に続く裏庭で両手を広げて待っていたのは、白衣も眩しい生物教師。
モデルのように整った顔と体躯。
無駄に良すぎて、真面目な顔をしていれば怖いくらいだ。
だけど、そう思えないのはこの男がくらげだから。
記憶力は悪く生徒の名前もクラスもろくに覚えていない。
こんなんでよく教師などやっているもんだと感心するくらいだ。
だが、彼女が苦手なのはこの教師が…
「俺と結婚してくれ。」
そう、リナにベタぼれだと言うことだ。
一瞬油断した隙にぎゅっと抱きしめられる。
その途端、『きゃーーーーっ!』と黄色い悲鳴が校舎の3階窓から聞こえてくる。
ぎぎぎっとリナが目を向ければ、手にした紙切れをぴらぴら降っている友人の姿。
逆の手にはストップウォッチ。
そう、彼女達が何故リナを”奢り”という手段を使ってこの校舎裏のゴミ捨てに行かせるのか…
それはひとえに娯楽のため。
リナ自身もよく知らない(教えてくれないから)がタイムを計測していろいろと賭けているようだ。
「ほら、リナーー!油断してると!」
友人が面白そうに叫ぶ。
へ?と意識を戻せば迫ってくる唇。
彼女は慌ててその顔を押し戻す。
「ちょっ!?先生何考えてっんの…よっ!!」
「何って…キスして…ナニ?」
「ばっ!?」
「リナだけ特別だ♪授業中には教えてやれないことを実践で覚えないか?」
「いらないわよっ!」
馬鹿だ。
この教師も友人も。
そして、そんな馬鹿達に毎回毎回乗せられてゴミ捨てに行く自分も馬鹿だ…とリナは思う。
ぐいぐい押し戻しても、一度懐に入れられてはなかなか形勢逆転とは行かない。
圧倒的に不利な戦いなのだ。
「先生…やめてって、は〜な〜せ〜〜!!」
じたばたと暴れれば暴れるほど、可愛いv ときつく抱きしめられる。
散々暴れて疲れたのか、それとも諦めたのか彼女が動きを止めた。
そして蚊の鳴くような細い声で、「やめて…」と呟く。
小刻みに震える肩。
「り、リナっ!?ごめん、怖がらせるつもりじゃ…」
今にも泣き出しそうな彼女に慌てる教師。
抱きしめていた腕を解くと彼女の顔を覗き込もうとし…
「よっしゃ!形勢逆転!!!」
「ぐぁっ!?」
彼女の見事なスリッパアッパーが決まり吹き飛ばされる。
と同時にカチリとストップウォッチを止める友人。
3階窓際ではわーわーと何か言っている…当たりが出たのか誰かが大損したのか…
そんなコトはどうでも良い。
「ちょっと!アメリア!!」
3階に向かって叫ぶ。
「なーに?」
「キングサイズのパフェじゃなきゃ許さないからねっ!」
おっけーと軽い返事。
あの様子だと、どうやら彼女の一人勝ちだったようだ。
リナはスリッパの痕を顔にくっきりつけた教師の横を通り抜けゴミ捨て場に向かう。
こうして今日も裏庭の逢瀬は幕を閉じた。
Fin
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