「あーーークソ、聞き込み終わった…って何やってんだ、あいつら?」
聞き込みから戻ったルークは、取調室の前で手錠をされたまま何事か叫んでいるガウリイと、そのドアの向こうで同じくなにか叫んでいるリナの姿に首をかしげた。
目の前のデスクに座るアメリアは苦笑い。
「リナが”連続弁当盗難事件”の犯人を捕まえたんです。」
「弁当って…あー、犯人ってアイツしかいねぇじゃねぇか…本気で気が付かなかったのかよ?」
「…みたいですね。」
呆れたといわんばかりのルーク。
食い物の恨みは怖いと言うが…
「で?今までどんな悪どいトラップにも引っかからなかった奴が何で捕まったんだ?」
「それが…」
困ったように笑う彼女。
救いを求めるように斜め向かいのデスクに座る男を見た。
その視線に溜め息を付くゼルガディス。
もったいぶらずに教えろよ。と聞くとしぶしぶ口を開いた。
「何も仕掛けてない。」
「…は?」
「何も仕掛けてないんだ…ただロッカールームではなく…デスクの引き出しに普通に弁当を入れていた。」
「それで?」
「リナが席を外した隙にガウリイが来て引き出しを開けて弁当を取って…代金分の札を置いて行った。」
そこを目撃されただけだ。
その言葉にルークは叫んだ。『嘘だろ!?』と。
「いや…事実だ。」
「おい、待てよ…今までのアイツのトラップは全てすり抜けておいて…」
彼が信じようとしないのも無理は無い。
今までリナが仕掛けてきたトラップはというと…悪魔の仕掛けそのものだったのだ。
あるときは軍用マニアから押収した手榴弾を使いロッカーを開けると安全ピンが抜ける仕掛けを施していたり…
斧や槍が降ってきたり。
科捜研から拝借した劇薬を仕掛けたり…目的のために手段を選ばないものばかりだった。
彼女が出した”弁当泥棒の被害届”の数よりも、彼女に対する”苦情”の方が実際多かった。
「地雷原と化したロッカールームから弁当を盗み出した時はちょっと感動したんだけどな…」
「確かに…全ての地雷解除してくれたおかげで私達も安全にロッカールームに入れましたけど…」
取調室前では不毛な押し問答が続いている。
「よくもまぁこんなにトラップ考えれるもんだと思ったけど…最後の最後で仕掛け無し。ってのもどうよ?」
呆れるような、少し残念のような。
妙な悔しさが心に残る。
「そう言えば…3日前のトラップ何か知ってます?」
「…確か…トラバサミだったか?」
「えぇ、そうなんですけど。実はあの時…リナ、向かいのビルの屋上から狙ってたんですよ。」
「狙ってた?」
「えぇ。”絶対仕留める!”って意気込んで…ライフル担いでコンビニで買った焼きそばパン齧りながら。」
焼きそばパン…
「おい、それって既に目的も見失ってねぇか?そもそも弁当を盗まれないようにするのが目的だろ?」
「えぇ。」
「なんで盗まれる前に食わねぇんだよ…」
ルークのもっともな突っ込み。
アメリアはニコリと笑った。
「そこがリナの可愛いところなのよね。」
知っていたなら教えてやれよ。
誰もがそう思ったが合えて口には出さなかった。
Fin
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