もう会えない

【警察官×犯罪者】





「まさか…とは思っていたけど…やっぱり貴方だったのね…ガウリイ=ガブリエフ!」

憎しみに銃を持つ手が震える。
彼はと言うと、苦笑いしながらいつもと変わりない態度。

「わざと無防備に置いて…おとり捜査…とは。随分卑怯な手だな…リナ。」
「卑怯?冗談言わないでっ!!」

銃を構えなおした。
どんなに趣向を凝らしたトラップを仕掛けても、いとも容易く獲物を奪っていく何者か。
情報が外に漏れている?そう考えてすぐに否定した。
違う…漏れているのではなく犯人は内部にいる。
しかも、あたしの身近に…

「…犯人はあたしの身近にいいる誰か…そう気が付いたときあんたを真っ先に疑ったわ。」
「へぇ…」
「でも、信じてた!あたしの思い過ごしだって!!」

しかし…裏切られた。そのことが酷く胸にのしかかる。
ガウリイは悪びれた様子も無く『仕方が無かったんだ。』と肩をすくめた。

「リナ、俺は…」
言い訳なんて聞きたくないわ!!
「リナ!」
「あんたの所為で…あんたの所為で…」

守りきれず散っていったもの達を思うと、裏切られた悲しみよりも憎しみが増してくる。
もう二度と同じものには会えないのだ…
明日こそは!と心に誓い、何度枕を濡らした事か!
絶対に許せない。

「とにかく現行犯よ!大人しく逮捕されなさい!」

ガウリイは降参だと言う様に両手を挙げた。
油断無く銃を構えたまま近くの同僚に手錠をかけるように言った。

「アメリア手錠を。」
「え?リナ…本当に手錠するの?」

当たり前でしょ!と言うとしぶしぶデスクから立ち上がり『すみません。リナがあぁ言ってるので。』と一言謝ってガウリイに手錠を施す。
犯罪者に謝ること無いわよ!!と叫ぶあたしを呆れた顔で眺めて再びデスクワークに戻る彼女。
大人しく手錠をされたガウリイは『それで?』とあたしを見下ろした。

「ゼル!!」
「…今度は俺か…それで?何だ?」
「取調室!使わせてもらうから。」

周りがざわつく。
”悪魔の取調べ”が始まる…と。青ざめる課の連中。

「使うのは構わんが…何を調べる気だ?」
「そんなの決まってるでしょ!こいつの余罪を含めて全部よ!全部!!」

そう言ったあたしに深い溜め息を付くゼルガディス。
そして肩をすくめた。

「調べなくても…ガウリイしか犯人は考えられないだろう?」
「考えられないって…じゃぁ皆知ってたって言うの!?」

くるりと課全体を見渡すと、皆一様に頷く。
犯人のガウリイもあっさり『全部俺がやった。』と認めた。

「酷い…みんな知ってて…グルだったのね…」
「落ち着け。俺達はグルじゃない。」
「信じられないわ!」
「…リナ、本当にガウリイさんの単独犯行よ。それだけは事実。」

ゼルガディスとアメリアが口々にそう言う。
ならば、何故…何故知っていたのに止めなかったのか…
彼を止めていてくれたら…大切なものを奪われなかった。

「止めなかった理由って…そんなの…ねぇ?ゼルガディスさん…」
「…あぁ。止められるはず無いだろう…」
「どうしてよ!!」

署内の誰も信じられない気分だった。
しかし、冷静にゼルガディスは告げる。止められなかった理由を。

ガウリイを邪魔してみろ…お前の仕掛けたトラップが作動する可能性が高いじゃないか。

署内の安全の為にも黙認するしかなかったんだ。その言葉に、また全員が頷いた。

「酷い…」
「おい、リナ…」
「酷いわ。もう誰も信じられない!!
「リナ!」

悲しくて、悔しくて…あたしはその場を飛び出した。
手錠をつけたまま追ってくるガウリイの気配がしたが構わず取調室のドアを閉めた。
ばんっ!と思い切りぶつかる音を聞いたがそんなことあたしの知ったことでは無い。
そのまま鍵をかける。

「おい、リナ!リナここを開けてくれ!!」
「嫌よ!みんな大嫌い!!」
「リナ、謝るから!俺が悪かった。でも聞いてくれ!全てはお前の”弁当”が美味過ぎる所為なんだ!」
「知らないわよ馬鹿!弁当泥棒!!

そのまま取調室に立てこもった。
毎日毎日昼になるのをどれだけ楽しみにしていることか…お腹の準備OKでお弁当を開けると中は空っぽ。
この時のショックは相当なもので、トラウマにだってなりかねない。

「でも、ちゃんと弁当代添えておいただろ!」
「うるさい!あのお札の顔があたしをあざ笑うように見えるのよ!馬鹿にしてるのよ!」
「それは、誤解だリナ!」
「黙れ!弁当泥棒くらげ馬鹿!」

こうして不毛な言い争いはしばらく続いた。
ぐーぐーと自己主張するお腹に、あたしが根負けするまで…。




Fin

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Odai


おまけ

2008.07.10 UP