翌日。
防寒対策を必要以上に施し、更に厚めのコートを着込んで姫は騎士と共に森に来ていた。
冬の森。
辺りはうっすら白く寒い。
「うぅ…寒い寒い寒い寒い…」
案の定。
寒さが苦手な姫様らしい素直な反応。
雪と同じ真っ白なコートは毛皮をあしらったフード付き。
十分に暖かいだろうに。
そう思いながらもついつい甘やかしてしまう自分に彼は口元に笑みを浮かべ、
「寒いのならこれもどうぞ。」
そう言って自分の外套を姫の肩に掛けた。
有り難くそれの前をかき合わせながら彼女はキンと張りつめた冬の森を見渡した。
嘘みたいだがこの凍てついた森にももうじき春が来るのだ。
考えてみれば当たり前だけどとても不思議だ。
薄く氷が張る湖のそばまで来て彼女は後ろを付いてきていた彼に問いかけた。
「ねぇ、ガウリイ。なんで今日…あたしをここに?」
振り向かないその背を眺め、彼は馬の手綱を離し剣に手をかけ…
「…あの男の命令?」
その言葉に動きを止めた。
ゆっくりと彼女が振り向く。
何もかもお見通しと言わんばかりの赤みを帯びた目。
「そうなのね?」
「なぜ、そうだと思うのですか?」
固い声で問う。
「ガウリイ…あんたがこうやってあたしを森に誘う時はあの男の命令で何か仕事をした時。」
彼から視線を外し足下の雪をつま先で弄る。
すぐに地面が見えた。
「そんな時のあんたって…いつものように笑わないのよ。知ってた?」
しゃがみ込み今度は手袋をはめた指で土に触れた。
コートと同じ白い手袋が土色に汚れる。
「………。」
無言で姫を見下ろす。
ギチリと奥歯が鳴った。
「ねぇ、あたしを殺すの?」
彼は剣を握る手に力を込めた。
続く…
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