夕刻。
森から戻った騎士は真っ先に王の部屋へと向かった。
手には木箱。
表情はいつにも増して硬い。
カツカツと大理石の床に彼の足音が響く。
花一つ無い長い廊下はこれからのこの国の未来を表すかのように暗く重く、寒々しい。
無駄に大きな扉を開け中にはいると待ちきれなかったのか奥の間から王が出てきていた。
「ガウリイ!待っておったぞ。」
そう言ってひったくるように木箱を取るとプレゼントを開ける時の子供のように声を弾ませた。
「あぁ、早う出ておいで。」
木箱の蓋を外し布で包まれた丸い物を取り出す。
真っ白な絹は幾重にも巻き付けられていた。
「おぉ!」
そしてそれが絹の中から現れる。
栗色の髪、硬く閉じた瞳、白い顔は血の気が無い。
彼はそれから目をそらすように口を開いた。
「実は王にお願いが。」
「褒美か?それならばなんなりと申すが良い。」
上機嫌の王は興奮気味に手の中のそれを眺めた。
「いえ…褒美はいりません。」
「なに?では何が望みじゃ?」
「どうか国を出ることをお許し下さい。」
「それは、余の僕を辞めたいということか?」
「はい。」
「何故?」
「…私は王家の者を守る事が役目です。」
「ふむ。」
右から左に聞き流すような相づちを打つ王は手の中のものに夢中だ。
「ですが私は…姫を手に掛けました。例えそれが我が主の命であったとしても許されざる大罪。」
「ほう。」
「その責任を取り、全てを捨て国を出る所存にございます。」
「ふむ…」
少し考えた王は、しかしあっさりと『よかろう。何処へなりとも行くが良い。』
そう言って、騎士にはもう用はないと言わんばかりに背を向け暖炉の奥の隠し部屋へと消えていった。
その姿を見届け彼も立ち上がる。
「この国はもう終わりかもな。」
肩をすくめた動きに合わせ金色の髪が揺れた。
続く…
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