――翌日――
今、仕事現場でレモン片手に撮影している。
何故レモン?と思うものの昔からそうだといわれれば仕方が無い。
スタジオの隅で眼光鋭いマネージャーが俺を睨んでいる。
”ガウリイ=ガブリエフ”のイメージを壊さないために、俺が余計な言動をしないよう見張っているのだ。
曰く…
『いいからお前は黙ってろ。あまり話すな。何か聞かれたら手短に無難に。でなきゃその天然っぷりがバレる。』
俺としては別にイメージなんてどうでもいいんだが…ろくなイメージじゃないし。
事務所的には、顔と中身のギャップがありすぎてNGだというのだから仕方が無い。
撮影が終わり、今度は新作映画のインタビューのため場所を移動する。
最近出来たばかりの海が見えるオープンカフェ。
こんなところにリナと一緒に来れたらいいのに…目の前に座っているのは雑誌の記者だ。
「えー、では。今回の映画では天才心臓外科医という役所ですが撮影が大変だったとか。」
「えぇ。そうです。現場にも本物の医師の方が毎回指導に来てくれましたね。メスの持ち方、手術シーンの手順と覚えることは台詞以上に多かったです。」
事前に質問内容はもらっているので淀みなく答える。
俺が待っているのは最後の質問。
そして、その時が来た。
「では最後に、今回の映画の見所を教えてください。」
「そうですね…主人公の心の葛藤、精神的な部分ですね。大きなトラウマ、心の闇を抱えている彼を演じるのに一番神経を使いました。」
「役作りも大変そうですね、何か参考にされたものはあるんですか?」
キターーーーーッ!コレを待っていたんだっ!!
「シンガーソングライターの”LINA"をご存知ですか?」
「え?あ、えぇ。」
リナの名前が出たとたん、マネージャーの眉間に皺がよる。
「実は彼女のファンなんです。」
「あ、えっと…それで?」
記者も首を傾げる。
何が言いたいのだろうと、先を施した。
「その彼女のPVに”翼を捨てた天使”というのがありまして。」
「えぇ、私も見たことがあります。ビルの屋上で片方の翼を手に立っている…」
「そうです。最後、表情も見えず、動きもなくただ立っているだけなのに心に響く物がありまして。純粋に、彼女の演技力に魅了されたんです。」
そこに本物の天使がいるような。
見えないはずの表情が何故か見える気がするのだ。
「言葉の無い演技、彼女のPVはとても参考になります。」
「他にも御覧に?」
「えぇ、もちろん。いつか彼女と共演出来たら嬉しいですね勉強にもなりますし。」
「でも、彼女はメディアには出てきませんよね。こちらも何度か取材を申し込んだのですが…」
「…それは、残念です。」
「そうですね、私も見てみたいです。ガブリエフさんと彼女との共演作品。」
「オファーがあれば、俺としては願ったりなんですが。」
にこりと笑う。
笑いすぎないようにといつも言われていたのだが、彼女のことを話していて少し気が緩んだ。
カメラマンがそれを逃すはずもなく、いつもと違う俺の写真が撮られ雑誌に載った。
To be continued...
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