「ガウリイ…」
「…リナ」
リナが優しく頬を撫でる。
それを不思議な気持ちで見つめていた。
何が不思議なんだろう?と近づくその顔をじっと見つめる。
するとリナが困ったように笑った。
キスするときくらい、目閉じてくれ…と。
あわてて目を閉じる。
「あいしてる。ガウリイ…」
「っん…」
触れ合う柔らかな感触。
隙間が無いくらいぎゅっと抱きしめられて、胸が高鳴る。
こんなにうれしいキスは初めてかもしれない。
リナからの初めてのキス。
これまで、何度かしたけど…それは全部自分からだ。
リナは真っ赤になるか、怒るか…いつもそのどちらかの反応しか示さない。
襲ってくれても良いのにと準備万端で挑んでも、何故か呆れた顔でため息。
おかしい。と常日頃思っていた。
出会ったころは、そりゃぁカワイイ美少年だったし。
ほっとけない感じで、母性本能ガンガン刺激してくるような危うさと、強さを持ってて…
しかし、それがいつの間にか異性に変わっていた。
ぎゅっと抱きしめたい衝動から、抱きしめられたい欲求に変わる。
だけど、リナの性格では、いきなり大人の恋愛に持ち込むのには無理があった。
誘っても気づいてもらえず…大っぴらにやれば嫌な顔をされる。
どこまで踏み込んでいいものか…わからなかった。
経験なら豊富なはずなのに…過去一度も真剣になったことがない自分にその時気がついた。
これは、自分にとって初めての恋と変わらない。
身体ばかり経験豊富でも、心が初めてでは…どう接していいのか解らなかった。
だから、子供みたいな馬鹿な手を使って呆れられる。
上手く駆け引きができない。
「………」
だけど、今日。ようやく…リナが求めてくれた。
溶けるようなキスを受けながら、ガウリイはその首に腕を回す。
リナの手が滑り、胸を愛撫する感触に身をよじりながらガウリイは思った。
なんでこんなに上手なの?
と。リナは初めてのはずなのに…
そう考えても、耳元でささやく声にどうでもよくなる。
首筋をぺろりと舐められてさらに身を震わせた。
「リナ、くすぐったい…」
「………」
「きゃっ、ちょっと」
首の次は頬をぺろぺろ。
あまりのくすぐったさにガウリイが声を出して笑うと、リナが身を起こした。
そして、にっこりほほ笑むと
「みゃーお♪」
鳴いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はっと目が覚める。
よくある板張りの天井が見えた。
「リナ?」
片手で探るがそこに彼はいない。
いた形跡も無い。
「…ゆ、め?」
呟いてがっかり落ち込んだ。
なんだ現実ではなかったのかと。
だけど、妙に生々しい感触もあったけれど…と思っていた耳に『みゃおう』と鳴き声。
半身を起してみると、ちょこんとベッドに座った猫が一匹。
長い尻尾をふりふりガウリイを見上げていた。
そういえば、宿で飼ってる猫に妙に懐かれて…昨夜は部屋に入れたんだった。
「…なんだ、リナじゃなかったんだ…残念」
手を伸ばして頭を撫でていると、扉が叩かれた。
リナだ。
もう起きてる。と声を返すと、先に食堂に行っていると彼。
ガウリイはベッドから降りると伸びを一つ。
そして、朝露の輝く景色を窓越しに眺めて一人ごちた。
「リナが全然相手してくれないから、欲求不満…」
Fin
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