The parallel world

03 【 欲求 】





「ガウリイ…」
「…リナ」


リナが優しく頬を撫でる。
それを不思議な気持ちで見つめていた。
何が不思議なんだろう?と近づくその顔をじっと見つめる。
するとリナが困ったように笑った。

キスするときくらい、目閉じてくれ…と。

あわてて目を閉じる。


「あいしてる。ガウリイ…」
「っん…」


触れ合う柔らかな感触。
隙間が無いくらいぎゅっと抱きしめられて、胸が高鳴る。
こんなにうれしいキスは初めてかもしれない。
リナからの初めてのキス。

これまで、何度かしたけど…それは全部自分からだ。
リナは真っ赤になるか、怒るか…いつもそのどちらかの反応しか示さない。
襲ってくれても良いのにと準備万端で挑んでも、何故か呆れた顔でため息。


おかしい。と常日頃思っていた。


出会ったころは、そりゃぁカワイイ美少年だったし。
ほっとけない感じで、母性本能ガンガン刺激してくるような危うさと、強さを持ってて…
しかし、それがいつの間にか異性に変わっていた。

ぎゅっと抱きしめたい衝動から、抱きしめられたい欲求に変わる。

だけど、リナの性格では、いきなり大人の恋愛に持ち込むのには無理があった。
誘っても気づいてもらえず…大っぴらにやれば嫌な顔をされる。
どこまで踏み込んでいいものか…わからなかった。



経験なら豊富なはずなのに…過去一度も真剣になったことがない自分にその時気がついた。



これは、自分にとって初めての恋と変わらない。
身体ばかり経験豊富でも、心が初めてでは…どう接していいのか解らなかった。
だから、子供みたいな馬鹿な手を使って呆れられる。
上手く駆け引きができない。


「………」


だけど、今日。ようやく…リナが求めてくれた。
溶けるようなキスを受けながら、ガウリイはその首に腕を回す。
リナの手が滑り、胸を愛撫する感触に身をよじりながらガウリイは思った。


なんでこんなに上手なの?


と。リナは初めてのはずなのに…
そう考えても、耳元でささやく声にどうでもよくなる。
首筋をぺろりと舐められてさらに身を震わせた。


「リナ、くすぐったい…」
「………」
「きゃっ、ちょっと」


首の次は頬をぺろぺろ。
あまりのくすぐったさにガウリイが声を出して笑うと、リナが身を起こした。
そして、にっこりほほ笑むと






「みゃーお♪」






鳴いた。












 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇












はっと目が覚める。
よくある板張りの天井が見えた。


「リナ?」


片手で探るがそこに彼はいない。
いた形跡も無い。


「…ゆ、め?」


呟いてがっかり落ち込んだ。
なんだ現実ではなかったのかと。
だけど、妙に生々しい感触もあったけれど…と思っていた耳に『みゃおう』と鳴き声。
半身を起してみると、ちょこんとベッドに座った猫が一匹。
長い尻尾をふりふりガウリイを見上げていた。
そういえば、宿で飼ってる猫に妙に懐かれて…昨夜は部屋に入れたんだった。


「…なんだ、リナじゃなかったんだ…残念」


手を伸ばして頭を撫でていると、扉が叩かれた。
リナだ。
もう起きてる。と声を返すと、先に食堂に行っていると彼。
ガウリイはベッドから降りると伸びを一つ。

そして、朝露の輝く景色を窓越しに眺めて一人ごちた。







「リナが全然相手してくれないから、欲求不満…」




Fin

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2010.01.21 UP