「リナ…」
夜も更けた頃、掠れる様な声と身体にかかる重みで目を覚ました。
ぼんやりとした視界に、月に照らされる金色…
「なっ!?」
状況を理解して飛び起きようとするが、いとも簡単に押さえ込まれる。
たいして力など入っていないのに…どうすることも出来ない。
ニコリと笑った顔が怖かった。
知っているのに、知らないガウリイ。
同じ欲に染まった瞳なのに、全く別の色…
「やだ、ねぇ…ちょっとガウリイ!」
「…嫌、止めない。」
何時の間にか肌蹴られた服。
首筋に感じる熱い吐息。
一瞬流されそうになる…しかし流されたその先を考えて肌がぞわりと粟立った。
受け入れるわけには行かない!何故なら…これは”女”のガウリイだからだ!!
「ガウリイ、ガウリイ、ガウリイっ!!」
手足は押さえ込まれて動かせない。変わりに声を張り上げる。
湿った舌が首筋から離れ、”彼”とよく似た”彼女”があたしを見下ろす。
「…ダメ、なの?」
しゅんと捨てられた子犬のような目。
こんなところは、アレと同じで性質が悪い!!
「駄目ったら、駄目!!」
「…りなぁ」
ぷいっと顔を背ける。
ここで流されるわけにはいかないのだ…数日前のように…
いや、うん、あれはかなりヤバイ所だった。
相手はガウリイ…とは言え、今は女同士…だから少し油断していたのだ。
宿の温泉に一緒に入ったのが間違いの元だった…。
『………。』
『どうかした?リナ?』
『…別に。』
湯船に肩まで浸かる。
長い金髪を濡れないようにアップにしているガウリイは本当に絵画のように綺麗だ。
別の世界から来た”女”のガウリイ。
本来は平行して進んでいるこれらの世界は交わることなど無いはずなのに…どうしたら彼女を元の世界に戻し、彼を取り戻せるのか考えていた。
当の本人はと言うと”考えるのはリナの仕事だから。”と能天気に笑っている。
やっぱり、性別は違ってもガウリイはガウリイみたいだ。
しかし…別世界のガウリイが女なのにもショックを覚えたが…他にも…
『ぐやぢぃ…』
『悔しいって…何が?』
ぶくぶくと湯に浸かりながら呟くと、何が?と聞いた彼女が”あぁ、胸の事!”ぽんと手を打った。
デリカシーの無さも男のガウリイといい勝負だ。
ギロリと睨む。
『そんなに怒らなくたって良いのに…だってリナ、形はすごく良いんだし。』
『…ホント?』
『うん、こっちのガウリイも言ってるでしょ?』
あたしとガウリイがそういう関係だと確信している聞き方。
勘が良すぎるのもどうやら同じで…真っ赤になった顔を逸らすと、かわいいっ!と抱きついてくる。
『ちょ、ガウリイ!?』
『だって女の子のリナって可愛いんだもの!!…ってあら…』
『な、なに?』
すーっとガウリイの細い指が胸の上を滑る。
こちらの彼と同様、傭兵をやっていた彼女だが…そうは見えないほどスリムだ。
『っ…な、どうしたのよ?』
『んー?ちょっとね…不思議な感じで。』
『な、何が…ぁ』
思わず変な声が出る。
『ここが別の世界で…リナはリナだけど、わたしの知っているリナじゃないのは理解してるんだけど…』
『だ、だからなっ…にゃ』
上ずった声。恥ずかしくて手で口を押さえた。
なに…女であるガウリイに感じているのか…。
彼女は続ける。
『性別だって逆で…見た目だって、似てるけどリナは”リナ”とは違うのに…』
『う、うん…?』
『あっちの”リナ”と同じ場所にほくろがあるの。ここと…ほら、ここにも。』
楽しそうに指で辿る。
そしてニッコリ笑うと、同じなのね?と聞いてくる。
『まぁ…確かに同じといえば同じだけど…』
『そう、じゃぁ…』
『ちょっ…ガウリイ!?や、ぁ…っ』
感じる場所も同じなんだ?と悪戯げに笑った。
何とか難を逃れたのは別のお客が入ってきたからだ。
あの時の二の舞になってたまる物かっ!
絶対に、この瞳に流されないと固く心に誓ってあたしは真っ直ぐに彼女を見上げた。
「ガウリイ、放して。」
「…ちょっとだけ、ダメ?」
「駄目じゃなくて、嫌。」
ハッキリとそう言うと、ようやくあたしの上から退く。
男のリナなら”良い”って言ってくれるのに…とかぶつぶつ呟きながら。
「…男のあたしも苦労してるのね…」
別世界の自分に同情を隠せない。
お互い”ガウリイ”に苦労する運命なのだと諦めたものの…どうせ苦労するなら”男”のガウリイの方がマシだ。
「………。」
いや、どちらも同じくらい大変だ…
Fin
|