焚き火の中で、乾ききっていない木の枝がパチパチ音を立てる。
目の前には膝を抱えてどんよりとした空気を鬱陶しくも身に纏い…いや、垂れ流している男が一人。
一緒に行動するようになって1ヶ月、いい加減…邪魔臭くなってきた。
こんな奴置いて行こうか?とも思うし、実際そうしたいのだが事情があってそうも行かず我慢する日々。
自分でも良く耐えているほうだと思う、うん。
川で釣った魚をくるりと反しながらそちらを見れば、金色の髪の間から物言いたげに覗く青い瞳。
「何?」
「…別に、」
あぁ!イライラする。
四六時中こんな目で見られたら気味が悪くて仕方が無い。
「ガウリイ…言いたい事があるならハッキリ言ってくれないかな?」
見慣れているけど、でもやっぱりどこか違う青い色。
その奥に見える狂おしいほどの欲は、よく知っている”ガウリイ”と同じなのだが…
姿形が違うだけでこんなにも悪寒が走るものなのだろうか?
「リナ…」
「な、何?」
思わず声が詰る。
焚き火を回り込むようにずいっと近づいてきたそれから、無意識に逃げようとする。
相手はガウリイだ。
だけど、こちらが知っている”ガウリイ”ではない。
「もう限界だ…」
手首を捕まれる。
剣を握る節くれだった指。
「リナ…」
声も、姿もまるで違う。
これは確かにガウリイだけれど、”彼女”ではなく”彼”なのだ。
「止めっ…ろって!!」
コレが、”彼女”ではなく”彼”なおかげで多少手荒な事をしても平気だ。
力尽くで押し返し距離を取る。
が、体格差は否めなく”俺”はぜぇはぁと肩で息をした。
「リナぁ…」
捨てられた子犬のような目で俺を見上げる。
そんな所は”彼女”と一緒なのだから性質が悪い。
「ガウリイ!何度も言ってるだろっ!俺はリナだけど、お前の世界のリナじゃないんだっ!」
そう、世界は一つじゃない。
同じようで、でも微妙に違う世界が幾つも存在しているのだ。
この世界では、ガウリイは女で俺…リナ=インバースは男。
でも、別の世界ではガウリイは男で…リナ=インバースは女なのだ。
そして、このガウリイはそんな世界からやってきた。
変わりに、こっちのガウリイがあちらの世界に呑み込まれてしまったが。
「お前が男だって事くらい解ってる!!」
「だったら気持ち悪いことするの止めろ!!」
「解ってるけど…リナとキスしたいんだっ!抱きしめたいんだ!見た目は男だけどお前は”リナ”だろ!」
「アホかーーーっ!!」
ガウリイ突っ込み用の必須アイテムのスリッパで遠慮なくぶん殴る。
男同士キスなんてしたいもんか!!
コレがガウリイなのだと解っていても、嫌なものは嫌だし、気持ちが悪い。
早く歪んだ空間を繋いで元に戻さないと…俺は襲われる。
確実に犯られる…そんなのは死んでもゴメンだ。
「だって…だって、あぁ…俺のリナにちゅーしたい…」
「するならお前の”リナ”にしてくれ…全く…」
再び膝を抱えて拗ねだしたソレを、鬱陶しく思いながら少し焦げた魚に手を伸ばした。
何としてでも男ガウリイを元の世界に送り返して、女ガウリイを帰してもらわねばっ!
どうせ襲われるなら彼女の方がまだマシだ。
Fin
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