ホームルームも終わり、いつものように彼女の教室の前まで迎えに来て…足を止めた。
中から聞こえた内容に聞き耳を立てる。
「ミリーナって、アイツのことどう思ってるのよ?」
「あいつ…ルークのことですか?」
「うん。」
この声は、お節介でトラブルメーカーのリナ=インバース。
いつもならば、『俺のミリーナにちょっかい出すな!』と言って怒鳴り込むところなのだが…
「どう…と言われても…」
困ったような顔をしている彼女。
その言葉の先が気になった。
「一緒に住んでるんですよね?確か。」
頬杖ついて見上げているのは、アメリアだ。
二人ともミリーナの友人。
中学に入って急に彼女の周りに現れた個性豊かな…お邪魔虫…そんなことを思いながらも気配を殺す。
「確かに…同じ家に住んでますが…」
その、先だ。
その先が知りたい…恥ずかしがり屋のミリーナだから俺を前にしたらいえない言葉もあるはずだっ!
もっと聞け!
もっと詳しく突っ込めリナ=インバース!!
手に汗握って初めて奴を応援する。
だが…待っていたのは思いもよらない言葉…
「わたし、赤毛は嫌いなんです。」
赤毛は嫌い、赤毛は嫌い、赤毛は…キライ?
頭の中でこの言葉が繰り返される。
俺は…赤毛…だよな?
一瞬自分を疑いたくなった。
一歩後ずさる。廊下に置かれたままのバケツに躓いて派手に転ぶ。
どがしゃーーん
という音に、気が付き振り向いた彼女と目が合う。
その瞬間俺は走り出していた。
「親父のバカヤローーーーーー!!」
と叫びながら。
何故ならこの髪はやつの遺伝に間違いないからだ。
こんな赤毛に生まれた所為でミリーナに嫌われたんだ!こんな赤毛の所為でっ!!
嫌われるなら親父だけにしてくれっ!
無我夢中で駆け抜けて…だから俺は知らない。
彼女達の会話がこの後どう展開していたのか。
「あーあ…泣いてたわよ。あの馬鹿。」
「………。」
「ミリーナさんワザとでしょ?」
「ルークって、心の声が全部口から出てるのよね…」
クスクス笑いながらリナはそれで?とミリーナに詰め寄った。
「それで…と言うと?」
「だーかーら、どう思ってるのよ、アイツのこと。」
「それは…わたしにはルークの気持ちが解りません…」
「へ?なんでよ、あんなにアカラサマなのに?」
きょとんと首を傾げる彼女に、ミリーナは困ったように『そういう意味で解らないんじゃなくて…』と苦笑い。
そこにアメリアが助け舟を出した。
「じゃぁ、リナはどうなのよ?」
「何が?」
「ガウリイさんよ。」
困ってしまっているミリーナを助けようと矛先をリナに向けたのだが…
人のことに対する勘は鋭くても、自分のことになると鈍感を通り越している彼女は…何の事よ?と言うのだ。
「…リナ、まさか…気が付いてないの?」
「だから何に?」
「…なんて言うか…ルークさんより可哀想…ガウリイさん」
「はぁ?なんでガウリイが可哀想なのよ?」
「もういいわ…ミリーナさんパス。」
手をひらひらさせて机に突っ伏したアメリアにパスを渡され、彼女もまた困ってしまう。
なんなのよー!と詰め寄るリナ。
「ちょっとミリーナ!?」
「あの…いえ…」
どうしようかと考えていたところに本当の助け舟が現れた。
黒の制服に金色の髪。
リナを迎えに来た先輩だ。
「おーい、リナ帰るぞー。」
「今、それ所じゃないのよガウリイ!ほら、ミリーナ!アメリア!!ちゃんと答えなさいっ!」
机をバンバン叩いて…まるで刑事ドラマの取調べのようだ。
しかし、そんな彼女の剣幕も気にせず、ゆったりと近づいてきた彼はまぁまぁとその頭をぽむぽむ撫でる。
「ちょっと髪が痛むでしょっ!?」
「大丈夫だって。それより良いのか時間。」
「時間が何っ!?」
「いや、だって…お好み焼きの美味い店…行くんだろ?」
その言葉に彼女の動きが止まる。
「そうだったっ!!こんなことしてる場合じゃないわ!行くわよガウリイ!!」
鞄を掴むと一目散に廊下へ駆け出していく。
その後ろを付いていく彼。
騒がしかった教室が落ち着きを取り戻し…ようやく二人は息を付いた。
「…あの鈍感さは…犯罪よね…」
「えぇ。リナさんの良い所…でもありますけど。」
ふぅ、ともう一度息を付き、どちらとも無く席を立った。
そしてその日…彼女が帰宅するとそれが待ち構えていた。
「ミリーナ、新しい俺を見てくれっ!」
赤毛は真っ黒に染められていた。
Fin
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