血の嫌いな吸血鬼

【ガウリイ×リナ】





喉が渇く。
身体の水分が干上がっていく感覚に襲われ苦しくて息もできない。
ダメだと思うのに手は助けを求めて彷徨いベッド横の台に伸びる。
手に触れたそれに一瞬戸惑うものの、やはり渇きには耐えられずストラップを引っ張った。
3回コールして出なかったら切ろうと数を数える。
1回…2回…

『もしもし。どうした?』

声が響く。
うん…と言ったきり黙りこむ。
言葉が出てこないのだ。
本当に嫌になる…自己嫌悪で涙が出そうだった。

『リナ?』
「………」

どうした?と再度聞くそれにようやく口を開いた。
なんでもないと。

『なんでもないって…』
「うん…ホント大丈夫。声聞きたかっただけ…だから」
『そっか…』
「…うん」

嘘ばかり。
今渇きを我慢したところで、明日になればまたあの会議室でこの人の血を吸うのに。
牙を突き立てて、溢れるそれを啜って…
コクリと喉をならすたび自分が化けものだと思い知る。
一度は離れよう、無かったことにしようとしたけれど、それは電話の相手に断られた。
吸血行為は少なからず相手に影響する。
かつて純潔の彼らは血を吸う事で相手をヴァンパイア化したと言う。
そうでなければ従順な僕に…
あたしの中の血がかなり薄まり、相手をヴァンパイア化する力は無いにしても好意を持たせる力くらいならあるのかもしれない。
それを彼が自分の意志だと思っているのかもしれない…どうしてもそう思ってしまう自分がいる。
電話の向こうにゴメンと謝った。

「おやすみ…」
『おい、リナ?』

ぷつりと通話終了のボタンを押し、枕に顔を埋めた。
喉がカラカラだ。
普通の渇きとは違う。

「…血なんて大嫌い…」

ぎゅっと目を閉じ身体を丸めた。
眠れそうにはなかったけれど…








カチカチカチカチカチ








時計の秒針が動く音を無意味に数える。
ベッドに横になったままぼんやりと廊下の先にある玄関ドアを眺めていると携帯が震えた。

「?」

チカチカとメッセージが届いたと知らせるランプの青い色。
動かすのも億劫な手を伸ばしメッセージを確認する。

――― 今、下まで来てる。―――

そして見計らったように着信。

「………」
『リナ?』
「…どう、したの?」

開けてくれないか?とそれ。
アパートまで来たは良いけど部屋の番号がわからなかったらしい。

「住所…なんで知ってるの?」
『職権乱用。俺、お前の上司だぞ?なあ、開けてくれないか?』
「…どうして?」

さっきの電話を気にして来てくれたのだろうか?

『ん?俺が会いたかったから。』
「………」
『リナ?』
「……502」

ぼそりと部屋番号を伝える。
すぐにインターフォンが鳴り、オートロックを解除した。
手を動かすのすら面倒だったのに、ベッドから立ち上がり玄関の前で待っている自分がすごく嫌だ。
気配がエレベーターを降りたのがわかる。
彼の匂いが近づいてくるのも…わかってしまうほど…

コツコツコツ…

聞こえるはずの無い足音。
部屋の前で止まる。
チェーンを外し、ドアを開けた。

「がう、り…」
「リナ」

そんな顔するほど我慢するなって言っただろ?と引き寄せられる。
パタンと閉じるドアの音を聞きながらその首筋に顔を埋めた。

血なんて嫌い…大嫌い…

意思とは別に喉が鳴る。
あたしはもう…ここから逃れることはできない。
一度溺れてしまえば後は沈むだけ…どこまでもどこまでも深い闇の中に。








「………」
「もう平気か?」

優しい声に頷く。
お人好しにもほどがあるとお門違いな思いも走った。
上がるぞ?とそれは断りあたしを抱き上げ部屋に運んでくれる。
ベッドに下ろされ、次に部屋の明かりがついた。
眩しさに目を細める。

「…そんな泣きそうな顔するなよ?」

わしわしと髪を撫でる大きな手。
これは俺の我儘なんだから、リナは気にするなと微笑んだ。
だけど、気にするなと言われて…えぇそうね、気にしないわ。なんて言えるわけがない。
会社で血をもらい、休みの日にまでこのありさまだ。
迷惑かけっぱなしで何も返せていない。

「ガウリイは…いい人すぎるのよ…」
「ん?」
「お人好しだって言ってるの…」

よく言われると照れたようにそれ。
褒めたつもりは無いんだけど…とため息。
すると、笑っていた青い瞳が真剣なものに変わり、あたしを捕らえた。

いつか見た…逆らうことのできない視線。
力ある言葉のように抵抗できないその声が確かめるように言った。


――― なら、見返りを求めて良いか?―――


頬を包む手のぬくもり。
あたしは静かに目を閉じた。






闇は紅く…どこまでも続く。




Fin

 << Back

Next >>

 


Odai


様々な恋人たちで10のお題 03【第三会議室】 の二人

2009.09.08 UP