「雨が降りそうね…」
窓の外は灰色に染まっている。
ガウリイはベッドに腰掛けたまま動かない。
沈黙だけがそこにあった…
「…どうしたの?」
「あぁ…」
手を引かれすぽんとその膝に収まる。
何を話すわけでもない…
ガウリイとこんな関係になってあたしたちは互いの弱さを知った。
こうなるまで知らなかった彼の執着。
求められる幸せが増えるたび…失う恐怖が募る。
もう互いに離れられない。
「…リナ」
頬に落ちる唇。
首筋を辿る指…あたしは身体の向きを変えるとぎゅっと抱きついた。
ガウリイを失いたくない…
たとえ世界が滅んだって、あたしは…
「ガウリイと一緒がいい…」
「リナ?」
「…なんでもない」
落ちてきた唇を受け止め、あたしたちは、静かにベッドに沈んだ。
雨の音を聞きながら金色の長い髪を何度も梳く。
このまま時が止まってしまえばいいと…この腕に抱かれ何度思ったことか…
腰をしっかりと抱くそれをそっとどかすとベッドを降りた。
「ん…リナ?」
すっと入り込んだ風が二人の熱を分かつ。
ガウリイが寝ぼけた声であたしを呼んだ。
「ゴメン起こした?」
ちょっとトイレ行くだけだから、あんたはまだ寝てなさい。と頬を撫でると素直に目を閉じるそれ…
すぐに寝息が聞こえて…あたしは屈みこむと頬に口付け、そして囁いた。
唱えてあった呪文を。
「眠り…」
更に深い眠りに落ちていく…
酷いことをしているのはわかってる。
何処にも行かないと…数時間前約束したばかりなのに…
「ゴメンね…」
着替えると宿の裏から外に出た。
雨が全身を叩く。
ぐっしょりと濡れたマントも髪も…重い。
振り返り彼が眠っている部屋を見上げた。
「…怒るだろうな…」
それとも泣くかしら?…どちらにしてもあたしは最低だ。
はぁ…と溜め息をもらした時だ…不意に叩きつけるような雨が止む。
…いや、違う…雨粒があたしをよけているのだ。
振り返ると闇の中からそいつが現れた。
夕方見たときと同じく…
「お別れはすみましたか?」
腹立たしい笑顔。
「まぁ…ね」
「それでは行きましょうか。セイルーンへ。」
「セイルーン…?」
「えぇ。」
なんでまた?と聞こうとした時だ。「リナっ!!!」と叫ぶ声。
見上げた窓には青い顔をしたガウリイ。
なんで起きちゃうのよ…と笑ったあたしの顔は引きつった。
絶望が混ざった青い瞳に胸が締め付けられる。
そんな悲しそうな顔しないで…
「何処にも行かないって言ったよな?」
「うん…」
「俺の傍にいるって…」
「…うん」
「じゃぁ何故!?世界なんてどうだっていい!!リナが犠牲になるならそんな世界…俺はいらないっ!」
あぁ、やっぱり泣いた。
ホント情けないんだから…と心のどこかで笑う。
ガウリイは世界なんていらないって言ったけど…あたしは違う。
あたしは…世界かガウリイかなら、ガウリイを選ぶ。
ガウリイのいない世界なら滅んでしまえば良い。
でも…ガウリイが生きる世界なら滅ぼすわけにはいかない!!
矛盾してるけど、その思いは絶対譲れない。
「帰ってくるわ…」
「…そんなの嘘だ…」
「絶対よ…どれだけ時が流れても…帰ってくる。心はずっと傍にいる。」
とうとう俯いたそれはぶんぶん首を振った。
嫌だ嫌だと駄々をこねる子供のように…でも次の瞬間…その身体がぐらりと傾いた。
そのまま倒れたのか姿が見えなくなる。
「…ガウリイっ!?」
呼びかけたが答えない。
何を…と後ろのゼロスを振り返ると、眠らせただけですよ。とそれ。
「余計なお世話でしたか?」
「…いいえ…行きましょう。」
「えぇ。」
あたしは、差し出された手を取った―――
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