封じた鍵

03 【 正義と友情 】





「リナっ!!!!」
「うわっ!?」

ゼロスに連れられてセイルーン王宮にやってきた。
東の空が薄く色づきはじめている。
空間を渡った…というよりは超高速で飛んだようだった。
足がふらふらするのを何とか踏ん張ったのに…彼女のタックルであたしは崩れ落ちた。

「アメリア相変わら、ず…何?泣いてるの?」

ぎゅっとしがみ付いてくる彼女。
背も髪も伸びた。
その口から漏れた声も、最後に会った時より落ち着いている。

「ごめんなさい…」

久しぶりの再開でいきなり謝るなんてとあたしは笑ったが、彼女の目は真剣だ。
王宮の庭に座り込んだままアメリアはあたしの手を握った。

「…神託が下ったのよ…世界は消滅するだろうと…」
「ゼロスに聞いたわ…」

あたしの所為だから何とかするわ。気にしないで。と言ったが彼女は首を振り先を続けた。

「違うの…それは違う。」
「アメリア?」
「…魔族だけが決めたことじゃないの…人間側も承諾したの…」

国中の巫女、神官が神託を受けた。
世界が消滅すると…それを回避する唯一の手段は…金色の力を引き出せし者を柱にすること…
あたしの名は…デモンスレイヤーズとして知れ渡っている。
どんな技を使ったなんてそんな詳しいことは知る由もないが…
その神託が誰をさす言葉なのか…魔道に精通するものならピンと来るはずだ。
関係者なら尚の事…。
タダの力で…魔を滅ぼせるわけが無い。

「リナの事を指しているんだって…すぐに解ったわ。黙っていたかった…他の誰かだって言いたかった…」
「それは無理でしょ?あんたは誰?背負っているものは何?」
「国と…民。わたしは…アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン…でも…リナの親友でもあるのっ!!

セイルーンを含めた各国の議会であたしを連行するよう決まったらしい。
どんな手を使っても息さえあれば構わないという強硬な国もあったそうだ。
世界中に手配がかかるはずだった。
しかし、それを止めたのがアメリアやフィルさん達。
強硬な手段で手配をかければあたしを捕まえることは可能かもしれないが…事情を知らない賞金稼ぎや傭兵によって殺されでもしたら意味が無い。
事情を知らせれば世界中が混乱に巻き込まれると…
だから、個人的に親しいセイルーンが全てを引き受けたのだと言う…

「…ごめん、リナ…本当に…ごめんなさい…」

ぽたぽたと涙が落ちて服に染みが出来る。
泣くことないのに。
だって、アメリアの所為じゃない。誰の所為でもない…
あぁ、なんでこう…あたしの回りは泣き虫が多いのかしらね?
一人、宿に置いて来たガウリイはもう目覚めただろうか?
情けなく泣いているんだろうか?
何処に行ったかも解らないのに走り回って探してくれているだろうか…?

「ほら、泣かないの!!笑ってアメリア。笑ってよ…」
「リナ…」
「旅立ちの前に見る顔が、みーんな泣き顔なんて嫌よ。」

だから、ね?と微笑むと、ぐしぐしと目をこすり涙を拭くアメリア。
笑った顔は失敗だけど。
その彼女の肩越しに庭の奥を見る。
神官や巫女が集まって大きな魔方陣を描いている。
その中に知った姿があった。

「…ミルガズィアさん?」
「あ、えぇ。竜族にも協力をお願いしたの…なんとか犠牲を出さない方法が無いかって…」

立ち上がったあたしは、アメリアに手を差し出した。
それに捕まりながら彼女は言った。

「方法はあるにはあった…でも…」
「でも?」
「結局リナが行かなきゃいけない事実は変えられなかった…」

それって…

「…それって、行くには行くけど…戻ってこられるって事よね?」
「え、えぇ…一応」
「そっか。なら良いわ。」
「リナ?」

ガウリイに”戻ってくる”って嘘言っちゃったの。とあたし
だってアイツ本当に子供みたいに嫌だ嫌だって駄々こねるから…絶対戻ってくるって…約束したのよね。
信じたかどうかは別として。
本当はもう戻れないと思ってた。
役目を終えて…例えば生まれ変わりなんてのがあれば…根性で彼の傍に帰るつもりだったけど…
でも、このリナ=インバースだから”あたし”なのだ。
他の姿、形じゃ…もうあたしじゃない。
心のどこかで諦めた部分もあった。

「何時かはわからないけど…また、リナ=インバースとして戻って来られるなら…十分よ。」

ありがとね。とすっかりあたしより高くなった彼女の頭を撫でた。






「そろそろ、よろしいですか?」

あちらも準備が整ったようですよ。とゼロス。
竜族、そしてセイルーンの神官たちによって作られた魔法陣が淡く光りだす。
その輪の中から二人がこちらに向かってやってきた。
ミルガズィアさんとゼルガディス…。

「久しぶり、ゼル。ミルガズィアさんも。」
「あぁ…」
「相変わらずの様だな。」

いささか暗い表情のゼルと、あまり変わらないミルガズィアさん。

「準備終ったのね?」
「まぁ…な。」
「ちょっと、ゼルまで暗い顔するのヤメテよね。やっとアメリアを笑わせたトコなのに!!」

そういうと、俺はもともとこういう顔だとそれ。
…うん、まぁ何時もニコニコしてるわけではないけど…

「ねぇ、それより…あの魔法陣は何?どうするの?」

それにはミルガズィアさんが答えた。
肉体と精神を切り離すためのものだと。

「…それって、死ぬってこと?」
「肉体から精神が抜けることを死と言うのならばそうだろう。」

…そうだろうって…そうでしょう?
要するにだ、世界を支える柱に出来た亀裂はアストラルサイドにあり…肉体を持つ人間は行く事が出来ない。
ならばどうやって行くのか?
手っ取り早い方法は邪魔な枷を消し去ればいいってことで…要するに死だ。
しかしこれでは、修復後…あたしはこっちに戻ってこられない。
精神が入る器が無いから。

「だから、リナの身体と精神を儀式で切り離して…その身体をミルガズィアさんたち竜族に預かってもらうのよ…」

それが一番安全だからとアメリア。
その意味はすぐにわかった…無理に笑った笑顔の奥にやりきれない悲しみが見えたから。
亀裂がどれほどのものか解らないが…世界が自己修復出来ないほどには大きいのだ。
それを塞ぐのにいったいどれだけの年月がかかるだろうか?
1年…2年?…10年、20年…もっとかもしれない。
途方も無いほどの時が過ぎるかもわからないのだ…だから長い時を生きる彼らに預ける…
このセイルーンではなく…

「そんな顔しないでったら。」
「でも…」
「そうね…あんたたちの老後の世話はあたしがやってあげるわ。」
「…リナ…」
「帰ってくるから。って…ガウリイもだけど、アメリアも泣き虫ね。」

今にも零れ落ちそうな涙を乱暴に拭ってやる。
もぅ!と文句を言う彼女の背をゼルの方へと押しあたしはくるりと向きを変える。

「それじゃぁそろそろ行きましょうか?」

長居は無用。
さっさと行って、さっさと帰ってくるだけだ。
魔法陣の中央にあたしは立った。






呪文が光の帯となって…視界が真っ白に染まった―――





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Omake



2009.04.13 UP