「リナっ!!!!!!!!」
アメリアの悲鳴じみた声に閉じていた目を開ける。
魔法陣の外からこっちに向かって走ってくるのが見えた。
足元に目を向ければ誰か倒れている。
長い栗色の髪が上り始めた日の光に照らされている…あたし。
駆け寄ったアメリアはその身体をぎゅっと抱く。
なんだか不思議な感覚だった。
目の前に自分の身体があるなんて…しかも魂が抜けた器だけ…
眠っているようなそれを、ミルガズィアさんや他の竜族がクリスタルに閉じ込める…
ぼんやりとそんな作業をみていた時だ。
「いつまで見ているんですか?」
『え?』
振り向くとぽっかりあいた黒い穴。それとゼロス。
どうやらあたしの姿は魔族には見えているらしい。
ちらりと目を向ければミルガズィアさんとも目が合った。
行けと言う様に頷く。
『…行ってきます。』
後の事はお願いしますと頭を下げ、ゼロスと共にアストラルサイドへと足を踏み入れた。
『へーーーーーーーー。』
歩く…と言うよりは流れると言った方が良いのだろうか?
天地もわからぬ中をただソレについていきながらあたしは声を漏らした。
「どうしたんですか?」
『ん?なんかさ、結構意外だったのよね。もっと暗い…ただの闇だと思ってたから。』
しかし実際のここは違う。
幾筋もの光の束が見えた。
その1本1本は髪の毛のように細い。
そうかと思えば、大きな川の様なものもあったり、海みたいに先が見えないものもある。
この一つ一つが…この世に生きるもの達だとしたら…
『人間のキャパシティなんて…髪の毛1本より細いのね。』
なんて小さな存在なんだろう。
海みたいに見えるのは魔族なんだろうな…と眺めていた時だ。
ピタリとゼロスの動きが止まった。
「ゼロス?」
どうしたのよ?と振り返る。
「これ以上僕は進めません…」
『?』
「亀裂はここまで広がっているんです…解りますか?」
よく見れば…彼が立っているそこと、あたしがいる場所と…一歩の距離しかないが…闇の濃さが違う。
こちら側は…無だ。
何も無い。
ただ…光の筋は皆…奥に向かって流れている。人も…魔族も…地上に生きるものは皆…
「これ以上進めば…僕ら魔族は引きずりこまれてしまう。」
金色の魔王に…
あたしは首をかしげた。何処に向かえばいいのだろうか…?
だけど何となく解る…闇が一番濃い場所に向かえばいい。
あたしはゼロスに背を向け先へ向かった。
しかし、ふと思い出し振り返る。
『あ、そだ。ゼロスー』
「何ですか?」
『ガウリイに何かしたら…こっち側からあんた潰すから。そのつもりでいてよね。』
気をつけます。と苦笑するそれ。
じゃぁね。と一歩踏み出してほんの少し進んだだけで更に闇は濃く、無は広がっていく。
もう振り向いた先にゼロスの姿はなかった。
ただ、光の筋だけが寄り添うように絡まりあってすぐ傍を流れていた。
人も神も魔族も…みんな同じ場所を目指す…それって不思議だ。
どれくらい進んだだろう?
不意に壁は現れた。
目の前に何かあるわけじゃない…でも本能的に感じる。この先には行けないと。
それと同じような感覚をもっと早い段階でゼロスたち魔族は感じていたんだろう。
きっと、ここが世界を支える柱の亀裂の一番深い場所…
『………っ』
そっと手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、底無し沼に引きずり込まれるような感覚が襲った。
抵抗など無駄と言わんばかりにまとわり付く闇。
声も出ないその場所で…あたしはただ”無”の中に放り込まれた。
唯一の救いは右手に触れた光の束。
地上に繋がる唯一のもの。
―――この中に…彼も混ざっているのだろうか…?―――
闇に侵食されるように…あたしの意識も途絶えた。
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